インターネット業界人はなぜ万能感や意識が高いのか、という考察


042

ある作家先生とお話をしている中で「インターネット企業の社員はどうして万能感が強いのだろう」という話題になりました。

きっかけは某大手メディアのプロデューサー氏のブログなのですが、そこに綴られた、いわゆる「地獄のミサワ」風な内容、そして語られる意識の高さに私達はクラクラしていたわけです。
その方は実績もある方なので「自分で自分を褒める」のは実に結構な事なのですが、残念ながら世間的には失笑を買ってしまっているようです。
ご本人がおっしゃるように、そこには成功者への妬みもあるのかもしれませんが、どちらかというと発言のデリカシーのなさや自己愛の強さが笑いの元になっている気がします。

単純に言えば自分に対する客観性が大きく欠けているということです。そんな意識でビジネスマンとして大丈夫なのかと心配になりますね。

彼に限らずインターネット業界人は、オラオラでキラキラしていると思われているせいか、SNSで指さして笑われたり総スカンされたりしがちです。中に入ればそんなに派手な世界でもないのですが、こういった一部の人達のせいでおかしなイメージを持たれてしまっているように感じます。

そんな世間のインターネット業界人wを地でいくオラオラでキラキラで意識高く圧倒的成長なインターネット業界人のテンプレートを兼ね備えているからこそ、某P氏のブログはエンターテイメント性にあふれたものに感じられるのでしょう。彼自身がメディア運営をしている事を考えると、さすがにバズらせるのがウマいなと思ってしまいますね(皮肉ではなく)。

さて、いわゆる「意識の高い」発言というのは、前述のようにインターネット業界人、特に大手インターネット企業の社員が発している場合が多いように思われがちです。その認識は当たらずも遠からずといったところでしょう。なぜそうなるのか、ちょっと考えてみました。

インターネットのビジネスは、ざっくりした言い方をすれば開業した途端に人通りの多いメインストリートにお店が持てるようなところがあります。しかも、参入の早い遅いに限らず誰もがそれなりに対等な条件で一等地にお店をもつことができ、しかも店舗運営には実店舗や他の産業のように大きな原資を必要とせず、しかもビジネスユニットの構成人数も少なく済みます。アイディアさえあれば早期の成功も夢ではありません。資金調達の口があれば、大学卒業後早々に起業することも難しくはありません。

初期投資が少なくスタートアップが早いということは、利益が出るまでギリギリの人数と、それに見合わない高い目標をつけられてしまうという事でもあります。現実的には三年程度はかけてマネタイズできる体制にしていくべきところを、半年程度で収穫期に持っていかなければならない、ということもザラにあります。圧倒的成長を求められるわけです。
これは起業した場合でも同じで、会社から渡される目標はなくても、債務に対して責任を持たなければなりません。勤め人以上に高速でマネタイズできるようにならないと、借金ばかりが膨らんでいくという地獄を味わうことになります。

このように、新卒でも一人前として仕事ができる環境は万能感につながり、課せられる高い目標や職務の分掌が意識の高さをかさ増しします。
難易度の高いミッションをクリアするほど、自分に対して強い自信が持てるようになります。そのサイクルが自信の濃縮と万能感に結びつき、世間でイメージされるインターネット企業の社員のようになっていくのです。
他の産業でも同じではないのか、と言われそうですが、先述したようにインターネットビジネスの世界はサイクルが早いため、濃縮もより早く進みます。
他の業界では40歳程度で得られる名声や社会的地位を20代後半で得られるような世界です。年相応の経験もないままに評価と収入は高まる一方なので、テンプレート的な意識の高いインターネット業界人が次々と生み出されていくのでしょう。

アイディア一つでなんとかいけると思われがちなインターネットビジネスの世界ですが、現実には多くのサービスが立ち上がっては多くが消えていくわけで、そう簡単にクリーンヒットは出てきません。結局のところ数撃ってどれか当たるだろうというなヤマ師的な部分が強く、それは大きな企業になるほど傾向が大きくなります。

特にその会社の主力となるビジネスに関われなかった場合、当たるか分からないようなビジネスを立ち上げて、自分の席を確保しなければならないという事情もあります。どこかの会社の「新規事業開拓部」は遠回しなリストラ部屋であるという噂も聞いたことがあります。そこで失敗したら後がないよ、ということです。
しかし、成功すれば名声と報酬がゲットでき、それこそ会社に「倍返し」ができます。そういう人もまた、「俺ってやっぱりすごい!」と自信がつき、意識の高いテンプレインターネット業界人に戻っていきます。

こうして「地獄のミサワ」風インターネット業界人は生まれていくわけですが、当然ながらそんな人ばかりではないですし、冒頭のP氏のような分かりやすい人はそうそういません。

入社したころから根拠のない自信に満ちあふれ、先輩達を戸惑わせる若い方が多いのも事実ですが、そういう新卒社員も、2年、3年とたつうちに現実に打ちのめされ、業界を去っていく人も少なくはありません。そんな事情を踏まえて言えば、意識の高い発言をしている人は、栄枯盛衰の激しいインターネットビジネスの世界で生き残るだけの実力を備えている人と言えるでしょう。もちろん、全員がそうではありませんが。

また使用者の側からすれば、「意識の高さ」はむしろ労働力の搾取を合法化するモルヒネです。意識の高さを煽って過酷な労働環境を自発的に社員の方から受け入れてくれるなら、こんなに簡単な話はないからです(これはインターネット業界に限った話ではありませんが)。

去年、キラキラ広報女子なるものが流行しました。
そんなキラキラ女子や、パソコンの前でユーザーの反応を見て軽やかにマーケティングと、クレーバーなイメージを持って業界に入ってくる人も多いと思いますが、実際の仕事はそんなにキラキラしていませんし、ビックリするくらい地味な過酷で現場仕事の積み重ねばかりだったりします。多忙すぎて心身を壊す人も多いわけでして、決して楽な世界ではありません。

そんな中で最後にすがるのが「意識の高さ」やプライドなわけで、「意識の高い」発言はある意味「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えているようなもの、と考えると、もろもろ納得できるのではないでしょうか?

(文/赤蟹)

 


赤蟹

スベスベマンジュウガニ並みに猛毒を吐きまくる赤い蟹の人。「てらどらいぶ」の裏ボス。サイト管理とコーディング、デザインなどを担当。文章を短くできないのが悩み。

コメントをどうぞ

内容に問題なければ、下記の「コメントを送信する」ボタンを押してください。