【ポンこれ】楽天の英語化とは何だったのか?


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今月半ば、楽天が海外事業を縮小されると発表し、大きな話題となりました。

今更説明するまでもなく、楽天はグローバル企業を目指し「英語公用語化」をはじめとする脱日本企業のためのイノベーションを推進してきました。また海外M&Aにも積極的であり、世界中に子会社を設立するなど、その拡大は順調に見えました。

しかし、およそ240億円を投じて買収した電子書籍サービス「Kobo」でのつまづき、ヨドバシ.comやYahoo!ショッピングをはじめとする新規競合サービスの猛追、全力疾走するAmazonとの詰められない差など、様々なネガティブファクターに見舞われた結果、国内ビジネスでも減益となり、今回の海外事業統廃合という決定になったようです。

三木谷社長の意向としては、国内ビジネスの回復とスピードアップを最重要課題とし、いわば「選択と集中」のためにまだ成熟しきったとは言えないブラジルや東南アジアから撤退するとのことです。言うなれば、戦略的撤退というわけですね。

 

■海外展開への強気な姿勢が崩れた

さて、楽天と言えば「英語公用語化」です。

2010年に発表された英語公用語化は、当時の日本経済縮退の気配と連動し、経済界では今後あるべき日本企業のあり方として大いに称賛されました。

当時三木谷社長が打ち出した「業務での日本語禁止」「全社員TOEICスコア600点以上」「規定されたスコアに届かなかった役員は退職してもらう」など、英語公用語化に対する正気の沙汰と思えないアグレッシブな姿勢も話題となりました。

そのイノベーティブなアクションに他の企業、特に大手ベンチャー企業も追従。英語準公用語化や、役員の英語習得必須、社内ドキュメントの全英語化、入社時にTOEICスコアを必要とするなど、来たるべきグローバル経済に向けた動きが活発化しました。ホントに楽天は余計な事をしてくれました。

それから5年あまり。楽天社員のTOEIC平均スコアは800点を上回り、英語公用語化への取組は成功と発表されました。海外事業についても、円高を背景に積極的にM&Aを行い、先述したカナダの電子書籍サービス「Kobo」を買収するなど、常に強気の姿勢をうかがわせました。

グローバル化を印象づける英語公用語化、そして急展開で海外進出をし続ける楽天および三木谷社長の経営方針。しかし、それは多くの称賛と共に、同じ数くらいの批判や疑問も投げかけられました。

多くの人達は、楽天の海外展開が思うように進んでいないと見抜いていたのです。今回の発表は、彼らの見通しが正しかった事を証明してしまいました。
なお、楽天の海外からの大規模撤退は、今回が初めてではありません。2012年には進出一年半にして中国から撤退をしています。
世界最大のECマーケットとなると予想され、ネットバブルにわく中国からの撤退は、楽天の海外進出戦略のつまづきと認識されました。しかし、その後も英語公用語化と急進的な海外進出が止まることはありませんでした。
そんな中で、国内でも虎の子であったECビジネスの成長も鈍化、独創的なハードポイントを持つライバル達が次々と現れ、日本国内で「ECモール一強」であった時代も終わりを迎えつつあります。
その上で今回の海外授業縮小の発表です。楽天の状況は、すでに楽観視できる状況ではないのかもしれません。
結果として、楽天は多くの人が思っていた「英語ができても、海外でビジネスが成功するわけではない」という「仮定」を自ら証明してしまいました。残念な事に。
■平均スコアアップのからくり

英語化の「唯一」の成果として、平均スコアのアップが言われています。

楽天ではランクごとに必要TOEICスコアが課せられており、達成できない場合は昇進と昇給を止められるどころが、ペナルティとして給料の10%を下げられます。

年収500万円なら年間50万円の減給です。尋常ではありません。当時のグローバル化歓迎の空気ですっかりスルーされていましたが、法的に問題はないのか誰も問題にしなかったのは不思議です。

減給が嫌ならTOEICスコアをあげればいいじゃない、となりますが、楽天は国内でもM&Aにより事業拡大をしており、ベンチャーという響きとは裏腹に年配の社員も多く在籍しています。
英語化は、ある意味そのような社員のリストラの口実にもなっていたようです。

また楽天は社員の入れ替わりの多い会社としても知られます。2012年の英語公用語化導入以降は、中途採用でもTOEICスコアの有無を問われました。

また、2012年以降は新卒採用にもTOEICスコア800点以上という条件をつけていました。同時に、グローバル化を背景に、英語ネイティブの外国人も積極的に採用していました。

お分かりですね。平均TOEICスコアの上昇は、TOEICスコアの低い社員が辞め、TOEICスコアの高い社員が入社するためです。

もちろん在籍している社員の勉強の成果であることは事実でしょう。なにより、給料を10%も削られるという状況では勉強せざるを得ませんから。

もっとも、楽天もただ英語を勉強しろと言っているだけではありません。講師を呼んでセミナーを開いたりレッスンを行うなど、スコアアップのための学習サポートをきっちり行っていたようです。公用語化と言った以上、会社としてもそれなりのコストを払ったわけです。
ただし、目標スコアぬ到達していない場合は、どんなに多忙であろうとレッスンに参加させられるなど、スコアホルダー以外の社員には依然として厳しい状況であったと言われています。

また、この「英語化」がネックとなり、スコアを持っていない中途採用者が採用しづらくなったそうです。結果として人手不足の部署が増え、従来在籍していた社員の負担が増えたという話もあるようです。

 

■外国人向けの日本語研修

外国人を積極的に登用している楽天。公用語は英語なので、理屈の上では英語さえ出来れば意思疎通や業務上のやりとりは完結するはずです。

しかし一歩社外に出れば、そこは「日本語」の世界です。外国人も増え、英語が堪能な人も多くなりましたが、日本語が使えなければ、ちょっとした意思疎通も難しいのが日本の現状です(その閉鎖的な状況を嫌ったのが楽天の英語公用語化なのですから)。

そんな外国人社員のために、楽天で「日本語研修」を行っているそうです。それはそうですよね、日本語ができなければ日本で生活できませんから。

「結局日本語を教えるなら、日本語で仕事すればいいじゃん」とお思いでしょうが、入社時に日本語ができなくて良い、という条件、また入社後に日本語を教えてくれる環境があるという条件は、日本で働きたい外国人にとっては敷居が下がり、とても魅力的です。多くの日本企業では、少なくとも日本本社に勤務したい場合、「日本語の語学力」を必要とされるところ、楽天では不要なのですから。

実際、楽天の「海外の優秀な人材を集める」というアクションにプラスになっています。

しかし、日本語を習得した後、楽天を「踏み台」にして、他の日本企業へ就職する外国人社員もいるという話を聞いています。

もっとも、これは日本人も同じです。楽天に限らず多くの企業がグローバル化を目指す中、TOEICスコアは中途採用の条件として重視されるようになりました。もちろん国内インターネット企業最大手である楽天に勤務という経歴も人材市場でプラスになるでしょうが、それに加えてTOEICスコアもあるのですから、当然転職先の選択肢も増え、待遇の向上が見込めます。少しでも条件が良ければ、転職を考える人も増えることでしょう。

こう考えると、楽天は英語化のための多大なリソースを消費しながら、他社に「英語ができる」人材を放出している状態になっているのではないでしょうか?

 

■英語化は楽天に何をもたらしたのか?

人材を失い、国内での競争力を失い、海外進出も不調。果たして英語化は「楽天」にどんな結果をもたらしたのでしょう。

プラスの面としては、前述した通り海外の優秀な人材を集めやすくなった点、海外進出が本格化した際、人材配置を用意に行える点、そして人件費をおさえ、また人材を整理できたという三点ではないでしょうか。

最後についてはいろいろな意見があるでしょうが、「人件費は悪」とされる現在の日本で、人材にかける費用は少なければ少ないほど良いと「過信」されています。実際人件費は経営に直結する数字なので、違法でなければ圧縮するに越したことはありません。
また、社員としてはそれが不法行為でなければ、就業規則により社命に従う義務が生じます。ゆえに、英語化を社是としたなら英語を学び、設定されたTOEICスコアを取得するのは当然とも言えます。
ただ、その方法が間違っていたように思えます。さすがに取得できなければ給料10%ダウンはやりすぎでしょう。むしろ適法なのでしょうか。大事なことなので二度言いましたが。

マイナスの面は、英語政策による人材の流出、英語化に対してリソースを多大に消費したこと、現在までの結果として、海外進出になにも寄与しなかったことの三点です。

あれだけの大風呂敷を広げた以上、「やはり英語化はやめました」と、三木谷社長は言わないはずです。

朝礼会議メールだけでなく、食堂のメニューに至るまで会社の掲示物全てが英語(かつ日本語の記載は一切なし)という徹底ぶりで英語化を推進している中、ある日突然「日本語でもOKにしましょう」と言うのも、かえって問題があります。

同様に、「これからは昇進にTOEICスコアが必要ではなくなります」とも言えないはずです。

スコアが達成できないばかりに昇進を止められていた社員はどう思うでしょう? 素直に喜べないはずです。
また昇進したくて英語勉強した社員にも「おかげで英語勉強できて良かったじゃない」で済まされては困ります。
スコアを理由に減給されている社員、もしくはされていた元社員が、減給分の給料返還を求めて提訴する事態に発展するかもしれません。

つまり、「英語化」と言い出した時点で、もう後戻りはできなくなっていたのです(もちろん、後戻りする気はないでしょうが)。

その代償は大きかったように思います。まだ完全に失敗といえませんが、今回の発表を見れば、厳しいジャッジをせざるを得ないというのが、大多数の判断となるでしょう。

ただし、「最初から失敗するのは分かっていた」と、単純に楽天を嘲笑するのは間違いです。
誰もが無理だと思えるチャレンジする先行者というのは、いつの世もどこの世界でも尊いものです。その無謀なチャレンジにより新たな地平が開け、人類が発展してきたのも事実です。

楽天という会社は決してファーストペンギンになれないと言われ続けました。
しかし、英語化という「壮大な実験」とその結果により「ファーストペンギン」になれました。社内英語化がもたらす効果を、先駆者として身をもって体現してくれたのですから。

日本の社会・経済の見通しは決して楽観的ではなく、当然のように今後グローバル化を推進する企業は増えてくるものと予想されます。そんな中で楽天のアクションとリザルトはよい教訓となったはずです。
せっかくのサンプルができたわけですし、少なくとも二の轍は踏まないでいただきたいものですね。

(文/赤蟹)


赤蟹

スベスベマンジュウガニ並みに猛毒を吐きまくる赤い蟹の人。「てらどらいぶ」の裏ボス。サイト管理とコーディング、デザインなどを担当。文章を短くできないのが悩み。

2 thoughts on “【ポンこれ】楽天の英語化とは何だったのか?

  • 2016年10月25日 at 17:56
    Permalink

    そうですよね。アベノミクスと一緒で、間違っていてもエンジンをふかすしかないですよね。

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    • 2016年10月25日 at 18:14
      Permalink

      コメントありがとうございます。結果論として現状を知っている我々は俯瞰することができますけど、動いている間は見えないでしょうしね。ただ楽天の英語化の場合、なんとなく社長のプライドが冷静な判断を誤らせたようにも思えるのですよね。

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