【ポンこれ】いまだにスパルタ新人研修が行われる理由


昨日に続いて新人ネタです。

前回の記事はこちらからどうぞ。

【ポンこれ】メンターになってほしくない先輩、3つの特徴とその対処法

4月ということで各社新人研修が行われていることでしょうが、新人研修の時期に毎年話題になるのが、過酷な研修です。人格否定や理不尽な暴言・叱責、大声での社是詠唱や挨拶など、新興宗教のイニシエイトのような光景がTVなど紹介され、世の社畜諸氏を騒然とさせます。

「あんな研修は意味がない」と言われながら、21世紀が16年も過ぎた今でも行われている事に驚きを禁じ得ません。

今回は、なぜあのような度を超した「スパルタ研修」が、いまだに行われているかに迫ってみます。

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■いまだに好まれる「根性論」と厳しさの神話

「根性」だけでは戦争に勝てないことを、1945年にイヤというほど思い知らされた日本人でしたが、敗戦してもなお相変わらず根性でなんとかなるという思考はどこかしこに残っていました。
戦争に赴いた将校や兵士は、それこそ根性根性で戦っていたわけで、精神論こそ大正義であることを骨の髄まで叩き込まれていました。そして軍務への献身と根性が高いほど出世したという歴史があり、そのような「地位」は戦犯になるか公職追放されるかレッドパージでもされない限り、戦後の社会でも通用したわけです。

結果、根性によって戦果をあげ根性によって出世した人達が社会の指導層におさまり、結果敗戦したにも関わらず精神論が保存されてしまう状態となりました。

精神論は戦後復興にも大きな貢献をもたらしました。高度成長期、人一倍頑張れば社会的成功に繋がるという、努力と成果が比例する状態が続いたこともあり、ますます精神論、根性論は幅を利かせるようになりました。

しかしバブルに突入すると、根性や精神論は古くさいものだと言われ、現代でいう「オラオラ」で「アゲアゲ」な人達(当時は「イケイケ」と言われていた)が次々に独立。ヤンエグ(ヤングエグゼグティブ)という言葉も流行りました。何をしても成功する時代にあって、会社で実績を積むことは成功への遠回りとすら考えられていました。

日本中がマネーゲームに狂奔し、汗水垂らして仕事するより投資したほうが大儲けできる時代。努力の価値は急落しました。

しかし、90年にバブルが崩壊すると、今度は努力のインフレがはじまります。ハイレートだった努力とインセンティブの比例関係が崩れ、努力が空回りする時代がやってきてしまったのです。

努力の空回りは仕事だけにおさまりません。就職氷河期の到来により、明るい未来を信じて積み上げてきた勉強の成果さえ否定されるに至り、多くの若者が定職に就けず「フリーター」となる状況が生まれました。

そんな狭き門をくぐり抜けた就活生を待ち受けていたのは、バブル以前を遥かに超える根性と精神論でした。

不景気と採用人数の減少により、より新人が即戦力として活用できるよう、スパルタ式の研修が流行り始めました。
戦後のリベラル文脈の中で、あれだけ戦中の根性論と大艦巨砲主義が否定されたにも関わらず、戦争後期のごとく精神論が復活したのは、敗色濃厚な空気が日本に戻ってきてしまったからでしょう。厳しければ厳しいほどいいというおかしな考えがはびこり、すでにアントニオ猪木にしか許されなかった「闘魂注入」が企業に復活しはじめました。

新社会人の方も、過酷な「席取りゲーム」の末に手にした就職。どんな理不尽な研修でも、我慢して受け続けるしかありません。バブル期以前からスパルタ式の研修を行っている会社はありましたが、氷河期時代以降のスパルタ研修はより厳しさを増していきました。

 

■「スパルタ研修」も「圧迫面接」も人材関連コンサルタントの「商品」にすぎない。

先述したとおり、スパルタ研修の過激化や圧迫面接は不景気と深い関係があります。
不景気ゆえに効率良く失敗しない採用をし、より確実に業績を作れる社員に育てるためのやり方としてこれらの手法が導入されていきました。

そこで人材系コンサルタントという仕事の需要が生まれてくるわけです。
彼らの仕事は新人を鍛え上げることです。と言っても外部の人間なので、就職先の業務について教えてくれることはありません。マインドセットや思考法、生活の管理方法などを指導してくれる会社がほとんどだと思いますが、このような過激な研修がウリのコンサルタントも多くあります。

昔ながらの根性論・精神論が大好きな経営者は今でも大勢います。彼らは最初にガツンと「しつける」ことで、社会人としての自覚を促すと思っているのです。そんなガツン大好き経営者は、より厳しく新人を鍛えてくれるコンサルタントに仕事を依頼します。

そのため、スパルタ系コンサルタント間で競うように研修の過激化が進んでいきます。
就活生の採用同様、人材コンサル間の競争も「席取りゲーム」です。不景気ならば当然そのパイも少なく、結果として「うちはより厳しい研修ができます」というカンジで売り込むことになります。

そんな下らないコンサルタント間の競争に巻き込まれ、社会人生活早々、会社の人間でもないオッサンに人格否定される新人も気の毒です。

この手のコンサルタントは、自分の価値を作るため、重箱の隅をつっつくような指摘を繰り返し、社内に叱りやすい人間を置き、終始その人を怒ることで自分の必要性を主に経営陣にアピールします。
そのような叱られ役は新人に限りません。いい大人が社外のコンサルタントにどやされている現場は、正直気持ちのいいものではありません。誰かが叱られる現場に同席させられる事も苦痛ですが、その叱られ役の人が四十半ばだとしたら、その人の年齢になってもまだ怒られ続けるのかと将来に対してうんざりした気持ちになります。

スパルタ系新人教育も含め、そのような「叱られる」現場を作るのは、コンサルタントの実績アピールのためです。新人諸氏および叱られ役の人にはなんの得もありません。叱ってるコンサルタントの一人勝ちです。

 

■コンサルに憎まれ役を押しつける経営陣

そんな無意味な叱責を繰り返すようなコンサルを信頼している経営陣も経営陣です。
しかし、このようなコンサルタントを雇うには、根性論が大好き以外にも合理的な理由があります。

それは、コンサルタントが「憎まれ役」を引き受けてくれることで、社内の秩序を守れるということです。

これが例えば人事部長が「うちの会社は採用ミスしました」と言ったなら、新人達はそれをずっと恨みに思うかもしれません。ヘタすれば人事部長を地位で追い越した時に「報復」をするかもしれません。
そのようなリスクがある中で、それでも堂々と厳しい研修という仕事を成し遂げられる人はむしろ尊敬に値しますが、当然そんな豪胆な人ばかりではありません。

しかし、社外の人材コンサルタントが言ったなら話は別です。出世しても復讐できるわけでもないですし、

そういう意味で、今話題になっているスパルタ系人材コンサルは、実は会社にとってとても便利な存在でもあります。女子を泣かそうがなんだろうが何しようが、会社や上司へのヘイトにはなりませんから。

ただ残念な事に、そのようなコンサルタントがいる会社は会社全体もスパルタ気質になりがちです。そのため会社に人が居着かず、常に人手不足の中で仕事を回すようになるので、結果として立場の弱い新人がストレスのはけ口になってしまう事も多くなります。もちろん、新人の方もモチベーションが下がり、結果として退職することになります。

結論から言えば、叱って育てる会社というのは、「社会人の自覚を促す」名目で厳しい研修をやっている反面、まともな感情コントロールもできない幼稚な社員であふれかえるようになるのです。

そのような厳しい環境が合う人も中にはいるでしょうが、これからの世の中に必要なものは根性や精神論でなく、本当に合理性が高い仕事のやり方です。
業務がPCやスマートフォンで効率化されていく中、特に労働集約型の仕事は依然としてこの手の古くさい手法が残存しています。多くの人を使う仕事であればこそ必要な厳しさかもしれませんが、何事にも限度というものがあります。

今回話題になった、限度を超えたスパルタ研修を堂々とTVで流したあたり、経営者側は自分たちが残念な人達だという無自覚なのでしょうね。
コンサルタント会社としては、その放送でどれだけ社会から批判されようと、厳しい研修の需要はなくならないので、実によい宣伝になったかと思います。

 

■厳しい研修が裏目に出ることも

経営コンサルタント会社に勤めていた時、「別の経営コンサルタントに人材育成を依頼したら、指導が厳しすぎて社員全員がやめてしまった」という会社がありました。
経営立て直しの中で「御社の社員がダラけているから、会社の業績が回復しない」と吹き込まれたようです。
社長はすっかり信じてしまい、そのコンサルタント会社に社員の指導を任せたそうですが、結果として全社員が退職、さらにそのコンサルタントも逃げ出したという話でした。

ただでさえ経営に躓いている中、社員にも逃げられた社長の立場も気の毒の一言ですし、実際に社員も厳しく再指導されない程ダメな人達だったかもしれません。業績の悪化で給料の支払いも厳しかったそうなので、多少のリストラはやむを得ないところもあったでしょう。会社も慈善事業ではないので、業績が低い社員を残しておくのが難しいのも事実です。
しかし、全社員がいなくなってしまったは元も子もありません。社員が残っていたなら例えばうちや他のコンサルタント会社の助力で立て直すことも可能でした。何人かには辞めてもらう必要があったかもしれませんが、それも社員の方が先に会社を見限らなければの話です。

研修に厳しさはいらないのか、というと、それもまたNoです。しかし、必要な厳しさと必要のない厳しさというものがあります。そして研修を受ける方は、後者については意外と察っしているものです。
育てられる新人も大変ですが、それ以上に育てる方も大変です。しかし、そんなことを言い訳にしてはいけません。「教えるオレだって大変なんだ」と言った時点で、尊敬は疑念に変わり、やがて軽蔑に変わっていきます。尊敬される先輩、上司になるためにも、おかしなメソッドやコンサル任せにせず、新人以上に勉強と教育に力を入れて頑張ってほしいものです。

一時期「人は財なり」という言葉が流行しましたが、会社はどこまでいっても人の集まりです。せっかく採用した新人を潰す必要などありません。20歳そこそこの若者を鬱になるまで追い込んで、少子化による経済衰退もへったくれもないですからね。

大人として、分別ある思考をしてほしいところです。

(文/赤蟹)


赤蟹

スベスベマンジュウガニ並みに猛毒を吐きまくる赤い蟹の人。「てらどらいぶ」の裏ボス。サイト管理とコーディング、デザインなどを担当。文章を短くできないのが悩み。

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