【ポンこれ】楽天の海外展開の失敗とその鈍感さ


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2月にアジア圏からの撤退を発表した楽天が、またしても海外事業撤退を発表しました。
今度はヨーロッパからの撤退で、イギリス、スペイン、オーストリアの三国の拠点を8月末に閉鎖するとのこと。

これで楽天が拠点を置く国は台湾、アメリカ、ドイツ、フランス、ブラジルの五国のみ。台湾やフランスでは事業が好調とのことで、今後はこれらの国にリソースを集中し、事業を強化するとのことですが、数年前までの強気なグローバリゼーションに陰りが見えたのは拭いようがありません。

国内でも4月にカンパニー制を導入し、事業の統合整理を進めると発表されました。積極的な広告展開等で認知度は高まった楽天ですが、事業の方では不調が続き、一時期のような存在感は影を潜めました。

英語公用語化や外国人登用などで、グローバリゼーションのお手本のように思われてきた楽天ですが、ここにきて実は張り子の虎だったのではないか、という疑いも見えてきました。

■円高頼りのM&Aにかげり

楽天が積極的に海外進出を果たした2010年前後は、リーマンショックによる世界経済の低迷に加え、円安が進み日本の製造業が激しい不況に苦しんだ時期でした。しかし、海外進出を目論む楽天には追い風になったようです。
円高を背景に積極的な国際企業買収を進め、驚きの速さで海外展開を進めていきました。

そこに全社員が英語を使うようにするという、英語公用語化を発表。全社員にTOEIC800点の取得を義務づけるという大胆な方策が、日本の経済萎縮を悲観視する経済人達に賞賛されました。

また海外の人材も積極的に登用し、特に新卒入社の社員は半数ちかくがNon-Japaneseという、後々の海外展開を見据えた急進的な国際企業化を進めてきました。

しかし、アベノミクスにより内需が高揚し、為替も円安となると、楽天の海外進出は急速に鈍りはじめます。

楽天のビジネスは海外へなにかを売って外貨を稼ぐビジネスではありません。現地でビジネスを展開し、そこから収益を上げていくビジネスです。一見為替も関係ないように見えますが、思ったように収益があがらず、それらの維持のため日本国内の収益を海外事業につぎ込んでいたのでしょう。

結果、円安の影響をもろかぶりし、今年に入ってからの相次ぐ海外事業からの撤退となったのかもしれません。

なお、カンパニー制によって国内の事業が整理されるのも、稼ぎ頭のクレジットカードやショッピングモールの売上げを不振なビジネスに入れ込んでいたからだと推察します。
楽天グループには様々なサービスがあります。世間にあまり認知されていないような泡沫的なサービスもあり、それらは楽天がまだかすかに持ち合わせているベンチャースピリッツの象徴でした。
しかし、これらのリストラ状況を見ると、すでに楽天には「様々なビジネスを実験」するリソース的な余裕が漸減しつつあるのかもしれません。

 

■再度問われる「英語化とはなんだったのか」

今回の撤退に伴い、現地の社員が100人ほど解雇されるようです。

楽天が欧州事業再編 英でリストラ、仏独は事業強化(日本経済新聞)

その国の拠点を閉鎖するため、雇用を続けるには海外に移住してもらうしかなくなります。ですのでリストラも仕方がないのですが、同時に楽天は各国で信用を失うことになります。仮に再上陸する時があったとしたら、今回の件を引き合いに出されるのは想像に難しくありません。

2月の東南アジア諸国からの撤退は、その発表が中華圏における小正月にあたり、現地では大型連休にあたる日でした。そのような祝日に撤退と解雇を発表した楽天には、現地メディアから「文化に対する理解が足りない」と辛辣な批判が集まりました。

これらのネガティブファクターを総じて見ると、楽天は実は真面目に海外進出する気なんてなかったのではないか?という疑いも強まります。

成長している企業像の強調、他の日本企業に先んじた国際化という先進性、それに伴う株価の上昇。全てがこれらの「虚勢」に費やされ、真剣に現地でのビジネスの定着、浸透、増益を考えて動いていなかったのではないかという疑いです。

当然ですが、日本国内と同じノウハウが海外に通じるはずがありません。他の国際企業も同じですが、それぞれ自国のノウハウを基盤として、その国々に合わせたローカライズが必要となります。そのローカライズというのは、単に言語を英語にするとか、現地の言葉にするという問題ではありません。各国の事情、国民感情、文化によりそってビジネスをアジャストするということです。

小正月に関しては、早々に撤退したとはいえ楽天は中国に進出していた時期もあったわけで、知らないはずがありません。少なくとも中国とビジネスをしている人なら当然知っている概念です。中華圏の文化の影響を受けた国、特に華僑が多いシンガポールなどでは小正月の文化は重要なもののはず。なぜビジネス展開する国の事情を鑑みなかったのか。自社のビジネスに「現地の文化なんて関係ない」と言えるほど、自信があったのでしょうか?

なにより、楽天は英語公用語化の前に、各国の文化を先に学ぶべきだったように思います。

役職に応じたTOEICスコアを取れない社員の給料を1割削減するという狂気のペナルティを課して無理矢理英語を習得させた楽天。
しかし、その強引とも言える過激な英語化に対して批判も多く、国際化を進めるにあたり英語公用語化は実質的な効果がないという指摘もありました。
また社内的にも、仕事をどれだけ頑張ろうがTOEICスコアがなければ昇進もできないという現実も相まって人材の流出は続き、またTOEICのせいで中途採用もままならないという状況になっていたようです。しかし楽天としては、優秀な人材の確保よりも英語を優先していきました。
結果から言えば、楽天は相次ぐ海外撤退により、英語化を批判する様々な意見を身をもって証明してしてしまいました。エクストリーム自爆とも言えるでしょう。

海外事業の失敗は、社員の英語力とは関係のないところで起きたものです。会社の要請に従い英語を勉強させられ、給料減というペナルティまで背負わされた社員のがんばりに、会社が応えなかったという事です。
スコアを持っていない事を理由に給料を減らされていた社員は、楽天を訴えてもいいのではないでしょうか?

 

■三木谷氏を中心に回り続ける鈍感な楽天

楽天を語る上でのキーワードとして、「鈍感」というものがあると思います。

批判の多いメルマガ攻勢やUIの不備とセンスのなさ、Kobo事件に見る顧客軽視の姿勢、そして今回の海外の文化を鑑みない撤退劇など、楽天は世情よりも自分たちの「世界(マーケティングや価値観、文化)」を優先したがる部分が際立ちます。

楽天にユーザーフレンドリーという言葉と縁遠いイメージがあるのは、これら鈍感さをユーザーが感じているからに他なりません。

ここ数年、副社長をはじめとした上級役員の入れ替わりが激しいですが、国王たる三木谷氏の立場は揺らぐことはありません。しかし側近を次々と入れ替えている状況を見ても、経営体制は盤石とは言えなそうです。ことさら経営方針や企業スタンスは三木谷氏のフィルターとなるものがないので、消費者に対してもダイレクトに彼の思想を突きつける結果となり、特定の人達が抱く楽天ヘイトの原因になっているように思われます。

価値観のブレのなさはある面では強みになりますが、別の面では排他性につながります。
英語公用語化、海外進出と「開かれた」企業を演出する楽天ですが、その実は自社の価値観やメソッドにこだわりすぎた、他に耳をかさない「鎖国」企業だったということでしょう。

その鎖国内部も人の入れ替わりが激しく、体制が整いつつあった事業が「さもゲーム機がリセットされるように」初期化されるという話も聞きます。社員やチームの経験則が積まれないので、サービスとしての強みが今一つ生まれてこないというのが現状のようです。

そのような状況の中で英語化といった業績に関係のない事柄にリソースを割き、社員の時間や収入も削り取ってしまったのだから、現状の楽天の不振は当然の結果であったとも言えるでしょう。

楽天の英語公用語化で唯一良かったことがあったとすれば、英語化を推し進めても海外展開が成功するわけではない事、そして日本でどれだけ成功したビジネスモデルを作れたとしても、現地の文化をリスペクトしなければ海外事業の成功はあり得ないという事を教えてくれたことです。

海外事業のみならず、国内事業の鈍化も目立ち始めた楽天ですが、今後これをどうリカバリーするのか注目です。

(文/赤蟹)


赤蟹

スベスベマンジュウガニ並みに猛毒を吐きまくる赤い蟹の人。「てらどらいぶ」の裏ボス。サイト管理とコーディング、デザインなどを担当。文章を短くできないのが悩み。

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