AV出演強制の疑い・・・大手プロダクション元社長逮捕とその背景についての私的考察


本サイトでは全年齢を意識して「AV」というキーワードを使わないことにしているが、本件はAVというキーワードを使わないと問題の本質が伝わらないので、例外的に「AV」を使わせていただく。

6/12(日)、各紙が一斉にAVプロダクション大手「マークスジャパン」の元社長逮捕を報じた。以前より疑惑があがっていたAV出演強要問題に、一つの大きな「決着」がついたことになる。

この問題について、数回に分けて書いていこうと思う。今回はまず、初報の内容と、業界の表裏について。そして今回のような事件が起きてしまった背景について考察していこうと思う。

今回の記事については、あくまで6/12時点で私が掴んだもろもろの情報を元に書いている。そのため、捜査が進んだ時点で「外れる」可能性は十分に高い。また、個人的な価値観を優先して書いている文章も多いので、必ずしもこれが「真相」であると断言できる内容ではない。あくまで推察にすぎないということを、あらかじめご了承いただきたい。

さて、本件に関する各紙の報道は以下の通りである。

所属モデルをAV撮影派遣=プロダクション元社長ら逮捕-警視庁(時事通信)

 所属の女性モデルをアダルトビデオ(AV)に出演させるため制作会社に派遣したとして、警視庁が労働者派遣法違反容疑で、AVプロダクション「マークスジャパン」(東京都渋谷区)の40代の元社長や50代社長ら3人を逮捕していたことが12日、分かった。
逮捕容疑は2013年9月ごろ、所属するモデルの20代女性を「公衆道徳上有害な業務」に就かせる目的で、AV制作会社に派遣した疑い。撮影は神奈川県内で行われた。
捜査関係者によると、女性は09年、マークスジャパンとグラビアモデルとして契約。AV出演を拒否したが、契約書にアダルト作品も含むという項目があったため、「違約金を払えなければ、親に請求書を送って払ってもらうぞ」などと言われ、意に沿わず出演させられたという。
女性は複数作品に出演したが、14年ごろ弁護士に相談し契約を解除。昨年の秋ごろ、「無理やりAVに出演させられていた」と同庁に相談した。同庁は今年5月下旬、同社などを家宅捜索した。

マークスジャパンの元社長に加え、現社長と社員が逮捕されたと報道。また、「親に違約金の請求書を送りつける」と具体的な脅迫内容も報じている。

女性にAV出演強要か 芸能プロ社長ら違法派遣容疑で逮捕(日本経済新聞)

 20代の女性をアダルトビデオ(AV)の撮影現場に派遣したとして、警視庁は11日、芸能プロダクション「マークスジャパン」(東京・渋谷)の社長ら男3人を労働者派遣法違反(有害業務就労目的の派遣)容疑で逮捕した。

捜査関係者が明らかにした。同庁は女性が意思に反する形でAVに出演させられていたとみて詳しい経緯を調べる。

捜査関係者によると、逮捕されたのはマークス社の社長と元社長ら。3人は2013年、同社に所属する20代の女性をAV制作会社へ出演者として派遣し、神奈川県内の屋外で、有害業務に当たる性行為をさせた疑いが持たれている。

女性は09年ごろ、所属していた別のプロダクションから「グラビアモデルの仕事ができる」などとしてマークス社を紹介され、移籍した。女性は当初AVに出るとは思っていなかったが、移籍後に同社がAV出演を承諾するよう迫り、契約書に強引に署名させられたという。

女性は契約を解除しようとしたが同社は違約金を請求。「親に請求書を送る」などと言われて諦め、複数の作品に出演した。作品は一般に流通しているという。

女性は弁護士の支援を受けて14年にマークス社側との契約を解除し、警視庁に被害を相談した。同庁はマークス社の関係先を家宅捜索し、出演作品の台本などを押収。性行為をさせられると知りながら、女性を撮影現場に派遣したと判断している。

マークスジャパンのホームページによると、同社は「所属するグループ全体で500人以上と契約する大手モデル・AVプロダクション」としている。

日経では時事通信の内容に加え、マークスジャパンの関連先で家宅捜索が行われ、台本等を押収と報道。

大手AVプロダクション元社長ら逮捕 女性「出演強要された」 労働者派遣法違反容疑(産経新聞)

 経営していた芸能事務所に所属していた女性を、実際の性行為を含むアダルトビデオ(AV)の撮影に派遣したとして、警視庁が11日、労働者派遣法違反容疑で、大手AVプロダクション「マークスジャパン」(東京都渋谷区)の40代の元社長ら同社の男3人を逮捕したことが、捜査関係者への取材で分かった。女性が「AV出演を強いられた」と警視庁に相談して発覚した。

労働者派遣法は実際の行為を含むAVへの出演を「公衆道徳上有害な業務」として規制している。捜査当局が同法を適用して強制捜査に踏み切るのは異例。

逮捕容疑は平成25年9月ごろ、マークス社に所属する女性を、みだらな行為を含む撮影のためAVメーカーに派遣したとしている。複数の女性が類似の相談をしており、メーカー側も女性が嫌がっていることを知った上で撮影していたとみられる。

警視庁はマークス社やグループの「ファイブプロモーション」(同)を家宅捜索。メーカーの「CA」(港区)、「ピエロ」(練馬区)も捜索した。

実際の行為の撮影は、同法をはじめ複数の法令に抵触する可能性があり、AVは演技を撮影することが前提とされている。業界関係者によると、過激な内容をうたう海外発のインターネット上の動画配信サイトが拡大していることなどから、既存の大手メーカーでも同様の撮影が横行しているという。警視庁は、業界内で違法な撮影が常態化していたとみて実態解明を進める。

AVの撮影が労働者派遣法の有害業務にあたるかどうかについては、判例上、「撮影時の行為の内容で判断すべきだ」とされており、製品の内容とは関係がない

現在まで報道されている中で、もっとも具体的で正確な内容のものが、産経新聞の記事である。
産経新聞の記事では、日経新聞でははぐらかされていた関連先として、業界最大手のCAの名があがっている。また、マークスジャパンの関連先として同じくAVプロダクションのファイブプロモーションの名もあがっている。

産経新聞の記事では、今回の逮捕はAVという存在の道徳的、人権的な問題によるものではなく、労働派遣法その他の法に抵触する疑いがあるためとしている。また、海外サーバーを使った遺法ポルノ動画サイトの存在も併記し、このような事態が起きた背景も記載している。この点については後述する。

女性をAVに出演させた疑い プロダクション社長逮捕(朝日新聞)

 アダルトビデオ(AV)に出演させ、公衆道徳上、有害な業務に就かせたとして、警視庁が、AVプロダクション「マークスジャパン」(東京都渋谷区)の50代の社長ら3人を労働者派遣法違反(有害業務就労目的派遣)の疑いで逮捕したことが分かった。

保安課によると、逮捕されたのは同社の社長のほか、40代の元社長、30代の社員の男。逮捕容疑は2013年9月ごろ、同社に所属する20代の女性をAV制作会社に派遣し、公衆衛生上、有害であるAV出演業務に就かせたというもの。

女性は09年ごろ、「グラビアモデルの仕事ができる」と説明され、同社に入ったが、AVに出演する契約書に署名させられ、女性が契約の解除を求めたところ、「親に請求書を送る」などと言われ、解除に応じなかった。女性はAVに出演したが、警視庁に昨秋、被害を相談。同庁は今年5月下旬、同社やAVメーカーを家宅捜索し、捜査を進めていた。

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は今年3月、AV出演をめぐる被害相談が3年ほどの間に72件寄せられたと発表。十分な説明なしにAVに出演する契約を結ばせ、断ろうとすると「違約金」を要求して出演を強要する事例が多いという。また、出演者が著作権などの権利を放棄する内容の契約が大半で、AVを制作するメーカーは自由に二次利用、三次利用ができ、販売が止められない構造になっているという。

朝日新聞は関係が深いHRNの報告を併記。また、本件は労働法関連の問題にも関わらず、「公衆衛生上、有害である」とAVそのものの否定するような意見を強調。まるでAVそのものが遺法のような書き方に終始している。前述の三誌と比較してイデオロギー色が強く「いつもの朝日新聞」らしい記事である。

この逮捕以前に、政府が調査に乗り出すという報道もあった。

AV出演強要は「女性に対する暴力」と国が認めたことを評価 伊藤弁護士ら関係者(弁護士ドットコム)

若い女性たちが本人の意思に反して、アダルトビデオ(AV)に出演させられている問題について、政府は6月2日、民間団体からヒアリングして、実態の把握につとめるという答弁書を閣議決定した。被害を訴えてきたNPOからは、こうした動きを歓迎する声があがっている。

今年に入ってから活発化したAV出演強要問題を受けて政府も動き出したということなのだろうが、なんにせよ、これによって数ヶ月に渡り議論されてきた問題にひとつの決着がついたことになる。マークスジャパンという大手プロダクションが問題の根源だったと判明したことで、私を含めてAV業界を擁護していた側は大敗北するに至った。

 

■なぜ、AV関係者はこの問題に気づけなかったのか

本報道による私周辺でのリアクションは、「あのマークスが」というものだ。

いまどき女性に脅迫で出演を強要しているという前時代的な手法を行っているなどとは、業界の人間には信じられなかったのである。
世間ではいまだにAV業界が不健全でいまだに反社が跋扈しているという印象が強いが、扱っているものがポルノという以外に、実際には普通の会社や業界とそう大きく変わらない。むしろ法制の強化が進み、AVメーカー、プロダクションでもコンプライアンスが必要となり、昔ながらの怪しい人間が居座れるような世界ではなくなっている。
AVのカジュアル化が進み、AVの価値が下落しつつある昨今、あえて危ない橋を渡ったとしても、それに見合う利益を得られる可能性は低い。業界全体に強い閉塞感があり、利益もあがりにくい昨今、多くの業界人は明日をも知れない気持ちを抱き、その明日を少しでも先にのばすために、法を守り世間のご機嫌を伺う。女優に支払われるギャラも安くなる一方で、ムリに出演させたところで元が取れるか分からないような状況だ。

そのため、AV業界の中でも健全なサイドにいた人間は、AV出演強要などいまどきありえないと言い張っていたのである。知っていてかばったのではない。肌感覚として「ありえない」としか思えなかったのだ。

ではなぜ、出演強要などしてしまったのか。その理由は産経新聞の記事に書かれているので、再度引用する。

 実際の行為の撮影は、同法をはじめ複数の法令に抵触する可能性があり、AVは演技を撮影することが前提とされている。業界関係者によると、過激な内容をうたう海外発のインターネット上の動画配信サイトが拡大していることなどから、既存の大手メーカーでも同様の撮影が横行しているという。警視庁は、業界内で違法な撮影が常態化していたとみて実態解明を進める。

前述した「怪しい人間」たちは、法規制が厳しくなった表のAV業界を去り、日本の法外で活動ができる海外サーバーの遺法配信のほうに移っていったのである。

ここで、大物AV男優A氏から聞いた話を記載しておく。
一連の出演強要問題が取りざたされたときに、私はA氏に「出演強要はあるのか」と聞いてみた。その際、A氏が知る周辺情報として以下のことを教えてくれた。

  • 海外サーバーの無修正動画サイト向けに撮っているメーカーではないかという噂を聞いた
  • その現場では出演者の性病検査義務付けなどの基本的な事すらしないらしい。まともな男優は出演を拒否している。
  • まともなメーカーなら法に抵触するような真似はできない。今そんなことをやったら生き残れない

一般の認識からすれば、合法のAVメーカーも遺法のAVメーカーもどちらもAVメーカーであり、どちらもAV業界のように思われるが、それは市場に流通している酒と遺法に作られたどぶろくを一緒にするようなものだ。どちらも「酒」には違いないが、酒税法に則っているかいないかの差は大きい。これと同じである。

繰り返しになるが、現在のAV業界では法律を守らなければ生き残れない。市場的に成功したとしても、警察の介入を招くからだ。家宅捜索が行われれば流通は停止するし、取引を拒否する店舗や配信サービスも出る。社長が逮捕されれば社内体制も刷新しなければならなくなる。「遺法コンテンツ」を作ることに対するペナルティが大きすぎるのだ。

しかし、残念なことに海外にサーバーを置くサービスはその限りではなかったようだ。
海外から(日本国内では遺法とされる)無修正ポルノを配信する場合、動画そのものは所在地の法律に順ずるため、所在地で遺法でなければ国内では取り締まれない。(※1)
そのため、表のAV業界で生きられない人たちがこぞって海外サーバーに移っていったという背景もある。この裏の世界では著作権違反は当然であり、中には実際に国内で流通している大手メーカーの「無修正版」が配信されていたりもする。数年前に有名女優の無修正版が流れたと問題になり、流出元と思われるオーサリング会社(動画を元にDVDを作る会社)の社長が自殺するという事件も起きた。

そして産経新聞の表現を借りれば、これら遺法サイトがポルノ市場で拡大した結果、国内の製作現場でも追従するようになってしまったということだ。これは男優A氏の証言にも重なるところがある。ただ彼は「まともな現場」しか行かないため、これらの問題が国内向けの製作現場でも行われていると知らなかったのである。

「表」のAV業界人には、裏の世界はあくまで裏であって我々とは違うという認識がある。しかし世間ではそう見ないし、実際には表の世界とつながっている部分はある。それでも業界人はそのようなつながりを切って健全化に励んできた。何度も言うが、そうしなければ生き残れないからだ。

 

■警察の介入とAV業界の「終わり」と「はじまり」

政府が明言したように、今後は警察が積極的に「女性の人権侵害調査」に乗り出すことになる。人権侵害調査とは労働派遣法に抵触しているか否かも含まれる。ただし、朝日新聞が言うような「公衆衛生上」の問題は含まれない。公衆衛生云々は明らかに朝日の勇み足である。
しかし、現時点でSNSの業界関係者の発言を見ると、AVそのものが否定されたと逆の意味で朝日新聞と同じ錯誤に陥っているような意見が多々見受けられる。業界は悪くないという擁護の声が大きくなりつつあるが、本件はAV業界に対する何かではない。あくまでマークスジャパンが労働派遣法に違反していた容疑での逮捕である。主語はマークスジャパンであり、関連会社である。AV業界ではない。ここの認識は誤らないでほしいところである。

しかし、大手AVプロダクションのマークスジャパンと、最大手のAVメーカーグループのCAが出演強制に絡んでいたことが判明した(※2)ことは、業界にとってなんとも痛々しい。これまで泡沫プロダクションの犯行だろうとたかをくくっていた業界人諸氏も多かっただろうが、そのような人たちにはなおさら神経中枢を一気に貫かれたような痛覚を受けたに違いない。
現段階ではあくまで容疑にすぎず、有罪確定に至っていないが、警察が動いたということはそれなりの物証や確信があってのことだろう。
しかし容疑が事実であったとしたら、これまで積み上げてきた「健全になったAV業界」というイメージを完膚なきまでに破砕することになりかねない。

なにより、人権団体や警察に「橋頭堡」を与えてしまったことは、業界全体としても気まずいところである。規制はより強化されるだろうし、プロダクション運営にも強烈な規制が入ることは想像に安くない。立法の問題になるかもしれない。なにより2020年の東京オリンピックに向け、ポルノの販売規制も強化されていくと予想される中のことである。規制の口実を与えてしまったことはなんとも痛々しい。

AV業界にとって受難の時代の到来ともいえるだろう。

しかし、一方で「そんな業界の悪い部分はどんどん取り払え」と考える「表」の業界人も多いだろう。

例えば川奈まりこ女史はAV女優の労働組合を組織するべきだと提言している。販売、配信側の人間としても「いつ発売/配信停止になるか分からないものは取り扱いたくない」と考えるだろう(当然だが、円盤を売るにせよ配信するにせよコストがかかるからだ)。
前述の男優A氏も言っているように、最低限の現場もルール(出演強制しない、女優のNG項目を守る、性病検査を義務付ける)も守れない現場には男優さえ忌避する。彼らからすれば、そんな現場は「今すぐなくなっても困らない」のである。むしろ、AV業界の悪評につながることはさっさと消えてほしいというのが本音であろう。

当たり前だが「遺法」なものが売れているからといって、正規の業者まで法を犯していいはずがない。そのようなタブーに触れてしまえば処罰は当然だ。業界側としてもかばうことはできない。むしろかばったとしたなら、その人の意識も疑わざるを得ない。今回の事件は、そういう質の問題である。自分で地雷を踏みにいったのなら、派手に吹き飛んでもらいたいというのが私としての本音である。

また、立法によってこれまでグレーだった様々なものが明確に線引きされることで、制作側にもメリットが多く生まれる可能性がある。それまでに世間の評価を覆せるかに、すべてがかかっている。

次回は人権団体のアクションについての考察を行うことにする。それまでに事件についての動きがあると思われるが、その際は今回の記事についても修正を記載する。繰り返しになるが、あくまで6/12現在の情報を元に書いているということをご了解いただきたい。

(文/団長)

※1:ただし、配信事業の一部でも日本国内で行われていた場合は処罰の対象となる。
※2:AVの多くは流通を担当するメーカーより制作プロダクションに発注されて制作される。その場合は、マークスとその制作会社の問題となる。CAなどのメーカーは発注と流通の責任は負うが、直接出演強要に関与したかどうかは断言できない。自社監督の場合は完全にアウト。

【6/14追記】

業界関係者より「外部の人間の無責任な指摘」だというご意見をいただきましたので、次回以降の記事の掲載は見送らせていただきます。ご了承ください。


団長

「てらどらいぶ」管理人。 ゲーム開発のディレクター、動画配信サイト管理人のプロデューサーなどを歴任。 心のゲームは「ウィザードリィ」と「ザナドゥ」。ドラクエとFFならドラクエ派。

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