艦これを遊ぶ父


USS Missouri - decommissioned battleship USA in Pearl Harbor Hawaii

私には69歳になる父親がおります。そんな父が今年に入ってから「艦これ」をはじめました。

きっかけはお正月に痛車を見たことがありました。

私の実家は元祖聖地として有名な鷲宮町にあり、お正月ともなれば全国からアニメオタクがお参りにやってきます。
まあ、痛車はお正月に限らず走っているので、鷲宮の日常としてそれほど珍しいものでもなく、両親も痛車を見ても特に反応しないのですが、たまたま赤信号で役場前に停車した時、母が駐車場のクルマを指さし「なにあの女の子」と聞いてきました。

おそらく女の子の周囲にゴテゴテと砲塔をつけた格好が珍しかったのでしょう。

「あれは艦これってゲームの羽黒だよ」

「妙高型の羽黒か」

「艦これは第二次大戦の軍艦を女の子にしたゲームで、基本無料で遊べるんだよ」

…と、だいぶかいつまんで説明したのですが、羽黒と聞いて妙高型と分かる程度の知識がある父は、かなり興味を示したようでした。

それから数日後。用があって実家に戻った時に、父がいきなり「艦これやりたい」と言い出したのです。

DMMのアカウントはすでに持っていたので(なぜかは深く考えないように)、いつでも絶賛開放中の柱島泊地にアカウント登録。提督名をつける際に実名を書こうとしていましたが、他のプレイヤーにも名前が見られることと、私も同じく柱島泊地なので、演習相手のリストに自分の父親の名前が出てくるのがイヤということで架空の名前に変えさせました。結局、好きな戦国大名の名前にしたようです。

プレイする上で覚えておかないといけない要点(大破で進撃すると轟沈する、轟沈した艦娘はロストするなど)を教えて、あとは下の説明とかネットの情報を見て遊んでと言って、私は東京に帰りました。

結果、父は見事に艦これのトリコになりました。

 

■艦これまみれの父の生活

艦これを始めたことにより、父の生活は一変しました。朝起きてから寝るまで、ほぼ艦これ漬けになったのです。

ここで、今月観測した父の生活を見てみましょう。

4:00起床と同時にパソコン起動。遠征結果を確認。その後遠征艦隊を派遣。
5:00演習相手が切り替わると同時に午前の演習を開始。その他任務と建造とレベリング。
6:00未踏海域に挑戦(このときは2-4だった)。無事突破したものの大破続出で入居作業。その後休憩。
7:00朝ご飯とか。
8:00母に付き合って録画した韓国ドラマを見る。
9:00録画していた水樹奈々のライブを見ながら艦これ。「水樹奈々はいいぞ」などと言い出す。
10:00艦これをプレイ。
11:00艦これをプレイ。
12:00お昼食べたり。
13:00艦これ再開。ついでに艦これアーケードの動画を見て羨ましがる。
14:00BSの時代劇を見ながら艦これ。見ている時代劇は「水戸黄門」と「江戸を斬る」。
15:00同上。
16:00時代劇が終わったのでまた水樹奈々のライブを見ながら艦これ。
17:00本日の艦これ終了。

まるで授業のない日の大学生のような生活です。年金のおかげで働く必要もないので、結果として丸一日ゲームをやってすごすという、社畜からすれば夢のような生活であります。

起きている間はほとんどパソコンで艦これ。母の愚痴も「毎日あれしろこれしろでうるさい」というものから「ゲームやりながらの独り言がうるさい」というものに変わりました。うるさいところに変わりはないようですが、うるさいの質は大きく変わりました。

定年後に夫婦仲が悪化する理由として「妻を部下扱いする」というものがあります。会社でのくせが抜けきらず、家でも「上司」として振る舞う結果、奥さんが気疲れしてしまうのです。
両親も同様な事態に陥っていましたが、艦これをはじめることで「艦娘」という命令対象(?)ができたおかげか、そのような部下扱いは大幅に減ったとのこと。母はせいせいしていました。

お正月に羽黒の痛車を見た事で、実家には平穏がもたらされました。父の生活は充実し、また熟年離婚の危機も回避できたのです。たぶん。

 

■身体が弱ったお年寄りにリアルタイムゲームは難しい

ここで、うちの父のことを少し。

うちの父は戦争が終わった翌年に生まれてました。いわゆる戦後の中でも世代の最初の世代ということになります。もちろん本人は戦争の体験はありません。

学生時代から読書、特に歴史小説が大好きで、我が家には父が集めた吉川英治、山岡荘八、司馬遼太郎、柴田錬三郎などの著作が置いてありました。もちろん本人も歴史好きで、私が歴史オタクになったのは父に古墳や城跡、歴史関係の資料館などに連れていかれたのが原因です。

そんな父は、30半ばに筋萎縮症という難病を発症します。しかも有名な筋ジストロフィーやアイス・バケツ・チャレンジで有名になったALS、SMAと違い、遺伝性でなく、発病後急速に筋肉が衰えることもなく、成人になってから発症という奇病でした。
年々身体から筋肉がなくなっていき、身体が動かなくなる父。身体の不自由は、父から一つ一つ趣味を奪っていくことになりました。

なんとか定年まで勤め上げたものの、すでに自宅の階段すら上れないほどに身体が衰えた父。歩けないので居間の椅子が定位置となり、テレビと読書とソリティアをやって過ごす毎日を送っていました。
母と一緒に買い物にいくのがちょっとした気晴らしになっていたようですが、北関東は巨大ショッピングモールだらけ。少し買い物にいくにも、広大なモール内を歩かなければなりません。満足に歩けない父にとって、ショッピングモールは大変な場所でした。カートを支えにして歩いていましたが、やがてそれすら満足にできなくなり、母の買い物中も留守番することが多くなりました。

そんな身体が不自由な父が、久々に熱中できる趣味を手に入れたということは、家族にとってもありがたい話でした。

以前「信長の野望」や「三国志」を勧めたこともあったのですが、最近の両シリーズはリアルタイムバトルばかりで、腕も不自由な父には辛かったようです。
しかし艦これは何をするにもクリックのみ。時間に急かされることもありません。急かされるどころか、時間があればあるほど有利なソーシャルゲームにおいて、年金生活者という立場は最強とも言えます。

むしろ、コーエーテクモのSLGは腕が動かないことを理由に投げ出した父が、艦これアーケードをやりたいと言い出したことは驚きでもありました。リアルタイムで陣形が変わり、実際に深海棲姫と砲撃を交わして戦う姿に、なにか感動に近いものを覚えたようです。海の側に生まれ海が好きな父が、大海原を疾走する艦娘に、まだ難病に襲われる前の自分の姿や思い出を重ねたのかもしれません。

…まあ、実際には身体が満足に動かないのでプレイできないのも分かっているので、Youtubeのプレイ動画見て満足しているようですが…。

 

■これからのソシャゲはシニア世代も狙うべき

そろそろ夏イベということで、父もイベントに向けてリソースの蓄積をはじめています。
前回完走できずIowaがもらえず悔しがっていたので今回こそ完走するぞと意気込んでいるのですが、もうお分かりの通り、毎日こんなペースで遊んでいるので、バケツがカツカツです。なにしろ三時間以上入渠となると容赦なくバケツを使うスタイルなので、貯まるはずがありません。むしろ任務などで手に入るバケツで賄えているのか疑問さえわいてきます。

どうしているのかって? 課金しているに決まっているじゃないですか。

ドッグ全開放や母港拡張は当然として、燃料や鋼材も買っていると言っていたので、ドッグ開放と母港拡張程度しか課金していない私よりも間違いなく課金額が上です。

先日、麻生財務相が「90歳で老後心配、いつまで生きるつもりだ」と発言したことで話題となりました。シニア世帯の貯蓄額が大きな割合を占めているわりに、消費が少なく市場にお金が流れないことを懸念しての発言です。

将来への不安や手厚すぎる社会保障ゆえになかなかお金を使ってもらえないわけですが、一方でシニア世代にアプローチできる商品もなかなか生み出せていないという現実もあるかと思います。

そこで、シニア向けのソーシャルゲームというのも選択肢のひとつに入れたらどうかと思うのです。老人はゲームをやらない、アニメを見ないとも言いますが、逆にゲームをやる、アニメを見る老人もいるわけで、デジタルコンテンツの市場として開拓する価値はあるのではないでしょうか?

その際、あまり「老人向け」というのを意識しないほうが成功します。デジタルコンテンツを消費するような老人は、自分が老人であることを認めたくはない人が多く、また若さへの憧憬も持ち合わせています。ゆえに、老人向けというのを嫌うからです。
若年や現役世代に向けてリリースした商品をどうやってシニア世代にも遊んでもらえるか、市場を押し広げるようなマーケティング手法が必要となってくるでしょう。

なお、父が艦これに熱中している理由の一つに「被弾すると脱げる」というのもあります。
男子たるもの、何歳になってもエロは必要なんですね(呆

(文/赤蟹)


赤蟹

スベスベマンジュウガニ並みに猛毒を吐きまくる赤い蟹の人。「てらどらいぶ」の裏ボス。サイト管理とコーディング、デザインなどを担当。文章を短くできないのが悩み。

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