【ニュースの小ネタ】ノルマの「当然」は勝ち続けた人達だから言えること


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昨今ネットを中心に世間を騒がしているPCデポの件。野島社長のインタビュー等でPCデポはマスコミに対し、高齢者への不要な高額サポート加入推進は組織的なものではなかったとはっきり否定しました。

PCデポ社長、高齢者PCサポート事業への批判に答える(ダイヤモンドオンライン)

――店や従業員の暴走なのでしょうか。それとも、会社の運営体質の問題だったのでしょうか。

チームや店舗としての予算や、個々のサービスの予算は設定していますが、従業員一人一人のノルマはありません。

反省点は、契約が成立した後も、本当にそのサービスを使ってもらえているのかというところまで、数字で把握する仕組みがなかったことです。店や従業員の暴走ではなく、経営体制の問題で、経営者として至らなかった点が大きいと考えています。今後、改善していきたいと思います。

として、野島社長は会社の体制自体に問題があったと認めています。

一方で、高齢者への不要な高額サポート加入推進は組織的なものではなかったとはっきり否定しました。

PCデポ社長、組織ぐるみ否定=高齢者の高額サポート契約(時事通信)

 ピーシーデポコーポレーションの野島隆久社長は1日、インタビューに応じ、高額なサポート契約が高齢者を狙った行為とインターネット上で批判されたことについて、「そのような営業指示を出したことはない」と語った。その上で、組織ぐるみの行為ではなく、特定の店舗と顧客の間に生じた契約上の問題との認識を示した。
野島社長は高額サポート契約問題に関し、「経営者である私の責任だ。経営体制を含め、調査検証を進める」と強調した。ただ、引責辞任ついては「選択することはない」と否定した。

情報のトリミングや編集の過程で様々な情報が切り落とされた可能性がありますが、PCデポの公式見解としては「高齢者をターゲットとした高額契約は組織的にやったものではないが、結果としてビジネスのやり方として問題あがあり、それらは経営者・経営陣の問題でもあった」というカンジでしょうか。

契約内容や販売の方法については以前の記事で書いたので、今回は脇に置いておきます。

気になったのは「ノルマはなかった」という一文です。

インタビューではノルマはないと言ってますが、日ごとの目標が記載された「トウゼンカード」なるものがあり、それが実質的にノルマになっていたという話もあります。そのトウゼンカードには解約引き留めなどの項目もあり、組織として関与していないという説明と矛盾するのではないかという指摘もあります。

そもそも「モノを売る」仕事で目標がない仕事はありません。これは直接商品と金銭のやりとりをしない通販やデジタルコンテンツ販売の現場でも同じです。またノルマについても、達成できない場合は自腹購入を強要されるアパレル業界や美容業界など、PCデポをはじめとする情報機器販売業以上に過酷な条件な世界もあります。

これらの問題は露見する毎にバッシングの対象となってきましたが、ほとんど改められることなく因習として残りつづけました。このような、とんでもない「ノルマ」が何十年放置され続けてきたのが日本の小売店の実態であり、そのような目標、例えば達成できなかったら自腹購入などが「当然」だというビジネス側の認識そのものが問題なわけです。もっと言えば、そのような厳しいノルマを達成できた人間しか残らなかったのだから、厳しい目標が「当然」となるわけですよね。つまり、こんなものはノルマと言わないという認識です。

俺ができたんだからお前もできるだろう。できないなら自腹を切れ。俺もそうやってきた。

という理論です。「俺」はもちろん「私」でも構いません。こういう根性論は意外と男女関係ありませんので。

このような、いわゆる意識高い系の方々のストロングマインドや仕事への姿勢は賞賛に値すると思いますが、戦場の兵士全員が勇者ではないように、フロアに立つ従業員全員がマッシヴでクレーバーでイノベーティブなわけではありません。

むしろ仕事のマニュアル(化)というものはそんな大多数を占めるであろう平凡な能力な人達を集積しても一定の成果、業績をあげるために行います。
このマニュアル化で勘違いされがちなのが「従業員の成長を促す高い目標」というものです。
会社は学校ではないので、社員にはさっさと数字を作れる人材になってほしいわけですが、教育成果にこだわるあまり、高すぎる目標を「当然」とするようなところもあるのではないでしょうか。前述のように、過酷な小売り戦線を生き延びてきたレジェンドたちが策定したものなら、ことさらそのようなカタチになってしまいそうです。そして「当然」の事ですが、販売の名人は人材育成の名人とは限らず、その手法も万人がマネできるものとは限りません。

こうして、帰結が自腹購入だったり事実上のノルマであったり、組織ぐるみではないといいつつも日々の過酷な販売目標を「当然」と言い切ってしまう会社の体制が生まれてくるわけです。

このような促成栽培は「当然」ながら人材の枯渇を招きます。会社としては「(どうせ非正規だし)辞めた分だけ補充すればよい」という考えもあるでしょう。しかしながら、人員が定着しない会社はビジネスの熟成が進まず、市場で勝ち残るためのコア・コンピタンスも獲得できません。

実際、従業員を使い潰しながら管理職級以上の人間は社外の優秀な人材を登用するという会社もあります
しかし、このようなやり方で業績が出せるのは、他社に対して先んじているもの、圧倒的に有利なものがある時だけです。ビジネスが陳腐化すればあっという間に他社に追いつかれます。その追撃を逃げ切るには、会社ではなく社員の中に蓄積されたノウハウ、すなわち社員個々人の練度の高さにかかってきます。

寿司職人が10年の修行期間をへるのは、「握れるようになる」ためではありません。寿司に新しい価値観を作り出す力を備えるため、すなわち「自分にしかできない寿司を作る」ためです。握り続けることで「ひらめき」のネタを蓄え引き出しを増やすためです。

数字ばかりおいかけるとこのような価値観や強みのようなものは形骸化します。そして数字ばかり追いかけさせられる社員達は「ひらめき」の元になる経験も蓄積されないまま、またその社員自身も何も得ることがないまま会社を去ることになるでしょう。それはお互いにとって大変不幸なことだと言えるでしょう。

それは、会社に疑問を持っていた元従業員が様々な情報を放流するところを見ても理解できます。
社外秘の情報を世間に晒す元従業員も問題かもしれませんが、彼らをそのような行動をさせるまでに追いやってしまった会社に問題はなかったのでしょうか?

そして、これらの問題を全て従業員の意識ややる気の問題に転嫁しつづけた日本企業の姿、もしくは末路が、今のPCデポなのではないでしょうか。

正直、笑ってられない会社は多いように思います。

(文/赤蟹)


赤蟹

スベスベマンジュウガニ並みに猛毒を吐きまくる赤い蟹の人。「てらどらいぶ」の裏ボス。サイト管理とコーディング、デザインなどを担当。文章を短くできないのが悩み。

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