国立科学博物館の「ラスコー展」に行ってきました。

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旧石器時代の遺跡、ラスコー洞窟。
一人の少年が発見したこの洞窟は先に発見されていたアルタミラ洞窟同様に、狩猟や漁など生きるための活動しかしなかったと思われたクロマニヨン人が絵画を描くという文化を持っていたことを証明するものとしてセンセーショナルに報道されました。

結果、クロマニヨン人の芸術遺産を一目見ようと多くの人が詰めかけました。フランス政府も観光資源として積極的に活用する事に決め、空調をつけたり洞窟内を歩きやすいように整備しました。

…が、それは結果として15000年という月日を耐え抜いた壁画に損傷を与えることになりました。これは遺産や観光地にありがちな観光客の心ない行動などではなく、見学者の呼気や空調によって洞窟内の空気の組成が変化したせいでした。要するに、人を入れることそのものが損壊につながってしまったというわけです。

現在ラスコー洞窟は壁画保存のために閉鎖され、修復を行う工員と一部の見学者にのみ人数を限定して公開しています。その代わり近辺にラスコー洞窟を再現した観光用の洞窟が作られています。

そんなラスコー洞窟ですが、なんと最新の技術によりフランスに出向くことなく「見学」することができるようになりました。

それが先日まで国立科学博物館で開催されていたラスコー展です(現在は終了)。

本特別展は洞窟内を三次元レーザースキャンで正確に計測し、それを元に3Dプリンターなどで洞窟壁面を出力、壁画をすることで実物大のラスコー洞窟(の一部)を再現、しかも国立科学博物館の特別展示室で見られるというのだから、すごい時代になりました。

入口では精巧に作られた実物大のクロマニヨン人模型がお出迎え。クロマニヨン人は身長180cm前後と高身長で、現生人類や、クロマニヨン人以前にヨーロッパで繁栄していたネアンデルタール人よりも若干大柄でした。

クロマニヨン人が急速に生息範囲を拡大した後期旧石器時代は、いわゆる氷河期の終わりにあたるので、復元模型も毛皮をまとった姿となっています。
氷河期や原始時代と言うと、一般的にはギャートルズのような簡素な毛皮をまとい裸に近い格好で暮らしているようなイメージがあります。しかし、マンモスが生息している高緯度地域ではあんな露出の多い格好では暮らせません。化石人類の中には長い体毛を備えたものもいたようですが、クロマニヨン人は現生人類と同じくホモ・サピエンスなので防寒具がなければ寒冷地では生きていけません。

模型のクロマニヨン人は私たちがイメージする石器時代の人間に比べると精錬されたデザインの衣服(毛皮)を纏い、様々な装飾品で身を飾っています。クロマニヨン人の時代にはすでにアクセサリーが生まれており、実際に出土しています。

この模型一つで、これから展開されるラスコー洞窟の世界が私たちの想像を超えるものだろうと期待させてくれます。

続いては3Dプリンターで作られたラスコー洞窟全体の模型です。本展の目玉となる実物大の模型ではなく縮小されたものですが、のぞき込むと洞窟の様子がわかります。階段が作られているエリアもありますが、これは観光地化されていた頃の名残です。

縮小模型の側にはラスコー洞窟から出土した石器、洞窟で実際に使われていた塗料(顔料)などが展示されていました。道具と言っても現在のような高度な画材とは比べようもなく、また塗料の調達も方法が限られていたり、遠隔地でしか採れない鉱石などを使っていたそうで、一つの壁画を描くにしても相当な時間がかかったに違いありません。また、恐ろしく根気のいる作業だったと想像できます。

その次が目玉であるラスコー洞窟を原寸で再現した空間となります。照明が落とされると線刻が浮かび上がる仕組みで、壁面に何が描かれるのか、その輪郭がわかりやすいようになっています。

再現された壁画はこんなカンジです。

こんなカンジで、よく図鑑や教科書に載っているラスコーな壁画が精密に再現されております。

 

会場のナレーションで頻繁に名前があげられていた「謎の鳥人間」。この鳥人間は男性なのですが、なぜ男性とわかったのでしょう?(難易度:易)

原寸大模型の先にはクロマニヨン人と同じ時代に生きていたオオツノジカの骨格模型やラスコー洞窟の描画方法の解説映像が流れるミニシアターがありました。ミニシアターのベンチに座っている人お年寄りばっかり。ご年配の方々の休憩所のようになっていました。

その先にはクロマニヨン人が作った石器や骨角器、装飾品が展示されていました(撮影不可)。

骨角器、すなわち骨材で作られた道具は、石に比べて加工がしやすいため、凝った彫刻を施したものが増えてきます。

私が気になったのは縫い針とヴィーナスの二つ。

前述した通り会場内に展示されているクロマニヨン人の模型は毛皮そのものではなく、服として加工された毛皮を着ています。この毛皮の縫製を可能としたのが骨製の縫い針です。
形状は現在でも使われている縫い針とまったく同じ。この頃からミシンが発明されるまでの2万年、縫製技術や素材の進化はあっても、同じような形状のまま縫い針が使われ続けたというのは不思議な感じさえします。そういえばCivilizationには「縫製」というテクノロジーはありませんでしたね。埋葬など、他の旧石器時代のテクノロジーが採用されていることはありましたけど。

もう一つはヴィーナスという骨製の女性像。これも旧石器時代に多く作られた偶像なのです。巨乳で巨尻と女性の身体的特徴をデフォルメしたデザインが特徴。教科書などで紹介される時には、祈祷など呪術(もしくはシャーマニズム)で使われたと解説されることが多いアイテムです。

でも私は昔から、女性をかたどったヴィーナスや土偶は、今のいわゆるフィギュア同様、男性の性欲を写したものだったのではないかと思っているのです。具体的になにに使われたものかは言及しませんが(察してください)、まあそういうエロいアイテムだった可能性もあるのではないかと。

旧石器時代は食料調達も大変で、当時の人類は四六時中狩猟や採取に明け暮れているようなイメージがあります。しかし当時は巨大な哺乳類がユーラシア大陸中を闊歩していたわけで、それらを狩猟できる技術があるなら、一回の狩りで手に入れられる食料も多く、さらに保存する技術もあれば四六時中狩猟をするような必要もなかったのではないでしょうか。

となると、私たちが想像している以上にクロマニヨン人の可処分時間は多いものとなり、結果として道具の装飾など生活に直結しない部分、すなわち文化が発展したのではないかと思うのです。

少なくともラスコー洞窟のような見事な画廊を作り上げるほどですから、狩猟や採取に費やす時間や労力も十分にあったと思われます。

骨角器の彫刻などを見ると、この時点ですでに分業が進んでいたように思います。道具を作る人は食料調達には参加しないで製作を担当し、依頼者の希望や作業時間の余裕などを見て彫刻を入れたり絵を描いたりしてたのではないでしょうか。

と考えると、今の私たちが思っているよりもクロマニヨン人の生活は豊かで余裕があるものであり、スケベな気持ちでヴィーナスを作ったり、単にかっこいいからという理由で洞窟に格子模様を彫ったりしてたのではないかと思ったりもするのです。

専門家としては「特に意味がなかった」と証明するのは一番難しいため、「何らかの意味があるのだろう」と言わざるをえないのでしょうが、私は単なる考古学好きなので適当な事言っちゃってます。

今から何万年後にも人類が生き残っていたとして、今の文化はどう見られるのでしょうね。電子化された情報がロストしたら萌えキャラフィギュアも呪術用の何かと思われてしまうのかもしれませんね…??

なお、ラスコー展は3/25~5/28まで東北歴史博物館で、7/11~9/3まで九州国立博物館で開催されますので、興味がある方はぜひぜひ。後期旧石器時代の理解が深まること間違いなしですので。

(文/赤蟹)


赤蟹

スベスベマンジュウガニ並みに猛毒を吐きまくる赤い蟹の人。「てらどらいぶ」の裏ボス。サイト管理とコーディング、デザインなどを担当。文章を短くできないのが悩み。

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