不誠実な番組制作を見抜けぬほど、今の視聴者はバカではない

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フジテレビの番組「世界の何だこれ!?ミステリー」という番組で、「月は自転しないため裏側が見えない」という解説があったそうで、SNS上で総ツッコミが入って番組公式ページで謝罪文が出るという展開になっている。

4月5日(水)放送の「世界の何だコレ!?ミステリー」の中で、「月の裏側が地球から見られない理由」を「月は地球の周りを公転するものの、自転をしないため」と表現しましたが、正しくは、「月の公転と自転の周期が約27.3日で一致するため」でした。 訂正してお詫び申し上げます。

上記にあるとおり、月は自転と公転の周期が一致しているため、常に地球側には月の表側が向いている。
キャンプファイアーの「マイムマイム」を思い出してくれればよい。全員手をつないで焚き火の方を向いているが、実際には全員が別の方向を向いている。誰一人として焚き火に背中を向けている人はいないのは、焚き火の周りを回りながら、自身も回転しているからだ。

仮に自転していなかったら地球上のどこかでは裏側がみえるはず。義務教育で教わることだし、少し考えれば分かることだ。

ネットでは「制作はこんな義務教育レベルの事も分からないのか」という声が多く見られた。

この意見には異論がある。簡単なことだ。自分自身が、義務教育で教わったことを全て覚えているのか、と問いただせばいい。
覚えていることもあれば、忘れていることもある。不得意な教科は特に覚えていないだろうし、今でも中学レベルの計算ができない人もいるはずだ。

だからこそ「大人のやりなおし中学数学」「TOEIC(R)テスト 中学英文法で600点!」という本に需要が産まれる。大人になってから、中学の勉強をしなおしたいという人が多いということである(なお、後者は本当にわかりやすいので、TOEICに初挑戦したい人には特にオススメだ)。

 

■必要だったのは、制作者の知識ではなくチェック体制

上記の理由で、今回の錯誤問題においては、制作スタッフの知識量は関係ないと考える。
月の公転と自転の関係を知らなかったとしても、今はインターネットで検索すれば答えが簡単に見つかる時代だ。Wikipediaの「月」の項を見ても月の公転と自転の関係は書いてある。

月は、太陽系の惑星やほとんどの衛星と同じく、天の北極から見て反時計周りの方向に公転している。軌道は円に近い楕円形。自転周期は27.32日で、地球の周りを回る公転周期と完全に同期している(自転と公転の同期)。つまり地球上から月の裏側を直接観測することは永久にできない。

インターネットに接続できる環境があれば、誰でもこの情報にアクセスできる。専門書をひもとく必要すらない。インターネットの恩恵は、それなりの情報をネットを通じて素早く得られること、すなわち自分発信のものを含む情報の裏取りが簡単になったということだ。

この番組は水曜の19:57スタートという、いわゆるゴールデンタイムの番組だ。少人数編成で作るに挑む深夜番組ではない。それなりのスタッフが集められ、ゴールデンタイムらしい予算がつけられている。MCも雨上がり決死隊にきゃりーぱみゅぱみゅとそれなりに豪華だ。

このような制作体制で、誰一人「月が自転しない」という説明に疑問を抱かず、簡単な確認作業もしなかったということが事が「驚き」である。

「確認しなかった」という理由からは、さらに以下の三点が類推できる。

  • 確認と修正の時間が取れない制作スケジュールにあった
  • 事実が言い出せない制作環境にあった。
  • 確認はしたが、どうせ視聴者は気づくまいとOAに踏み切った。

以上の理由が複数重なって今回の事故に至ったように推察される(最後の理由は穿ちすぎだと思うが)

 

■番組制作におけるフィクションとウソの違い

「ノンフィクション」と掲題していないコンテンツのほとんどには、演出という名のフィクションが含まれる。ドキュメンタリーと言われる番組、映像作品にしても同様だ。ドキュメンタリーは制作者の思想やバイアスが映像として表現される。そこにはトリミングされた情報もあれば、誇大化したファクターもある。ドキュメンタリーは「事実の模写」ではなく、制作者が視聴者に訴えたいテーゼをもって制作される「映像作品」なのだ。

インターネットの時代となり、ドキュメンタリー番組もたびたび検証される時代となった。
社会的な提言の体をなしながらも、世論誘導のための明確な「ウソ」が含まれていたり、事実と反する結論や一方の見解のみを正とするものも少なくない。
かつてはそのような手法で世論操作を牛耳っていたのだろうが、もうそういう時代ではないのだ。

一方で、エンターテイメント番組の中では、意図的にフィクションを混ぜる場合がある。それも明確に、子供だまし的にいれるものだ。例えばピラニアがたくさんいる河に入ると数秒で骨だけになるとか、吸血コウモリに血を吸われると命に危険がある、などの類いだ。
これらの描写はアニメなどでも好んで入れられるが、あくまで演出上の話であって、現実とは異なる。
ピラニアのいる河に入っても即時噛まれることはないし、ちいさな吸血コウモリが人間を失血死させるまで血を吸うことはありえないし、もちろん集団で寄ってたかって吸うこともない(例外もあるが)。
しかし「そういう設定にしたほうが面白い」ということで、これらフィクションのテンプレートは使い続けられている。

さて、今回の月の自転は、どちらであるか。

結論からすれば「ウソ」である。同番組はエンターテイメントであろうが、「自転しない」という要素がフィクションとしても面白くない。
なにより単なる調査不足、もしくはフォロー不足に過ぎず、今の番組制作現場のずさんさをあらわにしたに過ぎない。

果たして、これが時代の変遷によるものなのか、それとも元々の体質なのかは分からない。ただ言えることは、ネットで情報取得が容易になった現代において、素人でも怠らない裏取りというシーケンスをすっ飛ばす、誠実さに欠けた仕事は容易に見抜かれるようになった、ということだ。

それはテレビに限ったことではない。なんの業界、どんな仕事、誰の発言でもそうだ。そして同時に、その監視の目は、長らく社会の上層に君臨してきたテレビ局をも見逃さない。

なんにせよ、ネットの発達によって相対的に価値を落とし続けたテレビが今やるべきは、これまで見逃されてきたイージーでチープな番組制作ではなく、精密で誠実で熱量のある番組を作ることではないのか。

健康と動物と旅行に頼ってばかりでは、ろくなエンターテイメントすら作れない。すでにそんな体質になっているのではあるまいか。

(文/赤蟹)


赤蟹

スベスベマンジュウガニ並みに猛毒を吐きまくる赤い蟹の人。「てらどらいぶ」の裏ボス。サイト管理とコーディング、デザインなどを担当。文章を短くできないのが悩み。

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