内部告発のリスクと労働市場の流動化

Yahoo!ニュースに企業の内部告発を行った人々の「その後」を追った記事が掲載された。

内部告発者の「誇り」と「悔い」 「事件後」の日々を追って(Yahoo!ニュース)

「雪印食品牛肉偽装事件(2002年)」「ミートホープ食肉偽装事件(2007年)」「秋田書店景品水増し事件(2013年)」と三つの事件の内部告発者を取材した骨太の記事となっている。

そこには告発の影響の大きさに戦慄したり、告発の結果倒産に追い込まれ、多くの同僚、社員の仕事を奪ってしまった後悔、不正行為の強要とパワハラに苦しめられて受けた精神的ダメージに今なお苦しむ告発者の姿があった。

 

■ハローワークに殺到する元雪印社員

雪印食品牛肉偽装事件の事件で印象深いことがある。

事件直後、私のバイト先も店をたたむことになり、失業保険の受給手続きや求職のためにハローワークに通っていた。
そのハローワークの管轄地区内には雪印の工場があったため、当時はいつ行っても雪印の元社員で混雑していた。

さほど広いとはいえないハローワークの庁舎内が、雪印の社員たちであふれた。受付の前には長い列ができ、手続きするのも一苦労な状況だった。

大企業らしく求職する人々も様々。男も女もいたし、若い人もご年配の方もいた。再就職大変だろうなぁ、などと思いながら、前に並ぶ白髪まじりの方の頭をぼんやり眺めていたことを思い出す。

これからも長く大企業で働き、安定した生活が続くと思っていた彼らからすれば、内部告発はまさに青天の霹靂であっただろう。

当時の雪印は、二年前に発生した食中毒事件の影を引きずっており、工場の管理問題体勢不足などでブランドイメージを失墜している状態であった。当時の社長が記者団に対して「そんなこと言ったってねぇ、わたしは寝ていないんだよ!!」と怒声を発し、事件に対する無責任な態度が顕示されてしまうなど、悪手に悪手を重ねた結果、雪印製品に対するイメージは悪化。もむなしく、売り上げが急落する一方であった。

そこにきて税金をかすめ取ろうとするような偽装が発覚。誰もがしっていた乳製品の名門雪印は、三ヶ月で解散してしまった。
推測ではあるが、食肉偽装事件も、食中毒事件の発覚とその後の売り上げ不振が原因だったかもしれない。しかし、雪印がやるべきは信用の回復であって、偽計で助成金をもらう事はなかったはずだ。

当時私は若かったこともあり、雪印に対する義憤は大きかった。よくもここまで消費者を欺いてくれたなと憤慨し、倒産も同然だと思っていた。

同時に、一つの告発でこれだけの人がハローワークに殺到する事になるという恐ろしさも感じた。

今でも雪印の社員であふれた、あのハローワークの情景を思い出す。

信じていた会社がなくなり、明日が見えなくなった人達の心中はいかがなものか。しかも彼らは名門雪印の社員だった人達だ。優良企業に入れたことを喜び、このまま定年まで働けると信じていただろう。住宅ローンなどを組んだ人もいたはずだ。

まして当時は90年代の大不況の影を色濃く残している時代であった。再就職の困難さなども想像すれば、その絶望は計り知れない。

そんな彼らが、この内部告発をどう思ったのか。せせこましい虚偽を持った会社に対する失望か、それとも告発者への逆恨みか。なんにせよ、生活基盤を一瞬で失った彼らはネガティブな気持ちでいたに違いない。

■騙せた経験が次の偽計を生む

一度偽装・偽計を行った会社は、二度、三度と大がかりな偽装を行う。今話題の東芝しかり、三菱自動車しかりだ。

三菱自動車の事件については、「空飛ぶタイヤ」というタイトルでドラマ化されている。原作は半沢直樹で知られる池井戸潤だ。
てらどらいぶ内でもレビューを書いているので、一読いただけると幸いである。

三菱自動車は「空飛ぶタイヤ」のモデルになったリコール隠し事件、GDIエンジンのカタログスペック詐称および不正なエンジン改修(GDI倶楽部問題)など、度重なる不具合問題などでユーザーの信用を大きく毀損。そこにきて再度燃費不正が発覚。ランサーエボリューションで培ったラリーアートなイメージも一掃され、財閥系企業でありながら、その技術力を疑問視されるメーカーに堕してしまった。

雪印や三菱の事件を見ても分かるとおり、不正の遠因は売上不振や決算など、経営にからむ問題だ。
おそらく最初は、小さな違法行為や、見て見ぬふりなのだろう。しかし嘘というものは、一度成功してしまうと、次もきっと騙せると勘違いしてしまう。大きな嘘の原因は、常に小さな嘘だ。嘘がバレなかった「成功体験」が、さらなる嘘を生み出す源泉となっていく。あとは雪だるまと一緒である。嘘は嘘をうみ、企業は粉飾という厚化粧の中に埋もれていくのだ。

こうして三菱も雪印も、小さな見ぬ振りから解散、経営再編への道を辿ることになった。

気の毒なのは、そんなポンコツ上司の下で働かされていた人々だ。

 

■内部告発者を保護する法律は、果たして有用なのか

Twitterで「会社に強要され、不正行為を行ったことがあるか?」というアンケートを行ったところ、40%ほど経験したことがあるとの回答を得た。

不正行為への関与は、気分的にも良いものではない。発覚した時に巻き込まれる可能性もある。軽い気持ちで引き受けた不正行為が後々弱味になってしまうかもしれない。
しかし上司や会社に強要されてはやらざるを得ない立場に追いやられることも少なくはないだろう。どちらに転んでもリスクしかなければ、現状維持を希求して不正行為に手を染めてしまう向きも多いかと思われる。

記事内でミートホープの赤羽元常務も言っているが、会社倒産までに追い込まれれば、社員たちの生活も崩壊する。その中には、当然自分も含まれる。仮に会社がなくなったとして、内部告発経験という「爆弾」を抱えた人材を他の企業が採用するであろうかも疑問である。いまだに終身雇用志向が強い日本人は、会社というコミュニティを壊す人間を嫌うからだ。

そのような同調圧力の中で、不正行為は続けられていく。一部の良心と勇気を持つものは、愚か者だと思われるのだ。特に不正を行う会社は、内部構造的に閉鎖的な環境にあると思われる。

このような会社には行政は無力である。外部の情報を収集して証拠を積み上げなければ、関与ができないからだ。となれば、内部告発を待つしかない。

ミートホープの事件にもあるが、行政は匿名の情報では動いてくれない。これは行政が薄情というわけではなく、明確な証拠にはなり得ないからだ。

記事にもあるように、2006年に公益通報者保護法という法律が制定された。この法律により内部告発者の身分は守られ、不正行為を行う企業を告発しやすくなった。しかし、実際には内部告発は増えていない。もちろん、清廉な会社が増えたといういうわけでもない。組織の安泰が自分の将来とリンクする以上、不愉快であっても不正行為を見逃す、または荷担するという選択肢を選んでしまう人が依然多いということである。

 

■不正行為防止と内部告発の症例を行うには、労働市場の流動化が不可欠

しかし、労働市場が活性化し、流動化が進めばこのような問題も解決していくかもしれない。次の仕事先が容易に見つかるのなら、無理してイヤな職場に勤め続ける必要もなくなるだろう。

また、内部告発が容易になれば、各社コンプライアンスの徹底を行うようになり、結果的に日本経済と労働環境の正常化がなされていくに違いない。

例えば私が勤めていた会社も、電通の女子社員過労自殺を受けて、残業代や労務の見直しが入ったそうだ。
確かに、内部告発によって会社はなくなるかもしれない。しかし雪印やミートホープの事件により、牛肉偽装や食の安全といった問題が一気にクリアになったように思う。一つの内部告発が多くの企業に改善をもたらすこともあるのだ。

不道徳な会社は、最終的には消費者に多大な迷惑をかける。政府や行政には、さらなる労働市場の活性化、流動化をお願いしたいところである。

(文/赤蟹)

 


赤蟹

スベスベマンジュウガニ並みに猛毒を吐きまくる赤い蟹の人。「てらどらいぶ」の裏ボス。サイト管理とコーディング、デザインなどを担当。文章を短くできないのが悩み。