文章養成講座に行ったら政権批判を聞かされた件

先の日曜日に、某出版社が主催する文章力養成講座に行ってきました。

てらどらいぶでもカクヨムで文章書きまくっている私ですが、最近どうにも面白い文章を書けていないと自覚してしまったからです。

毎日書いているわりにはうまくならない、むしろ書けば書くほどヘタになるような気さえしていました。
そんな、自分の文章力のヘボさに悩んでいた私のところに、こんな魅力的なメールが送られてきました。

突然ですが、赤蟹様は文章力に悩んだことはありませんか?
「読者を楽しませる文章ってなんだろう?」と考えても、書き方を学べる機会は少ないですよね。
そこで作家の○○さんに学ぶ『文章教室』の開催を企画いたしました!

(中略)

ベテラン作家直伝の文章術を、誰でも使いこなせるよう分かりやすく解説

前述した、某有名出版社からの案内(メルマガ)です。
講師は作家で元全国紙論説委員、週刊誌編集長を勤めた文章のプロフェッショナル。有料セミナーですが、講師として登壇される方の文章ノウハウ本もプレゼントとのこと。
金額も10連ガチャ1回分程度。それで文章力がアップするならと、ガチャを回したつもりで課金しました。

 

■文章術教室でまさかの自民党批判!

そしてセミナー当日。楽しみにしながら某有名出版社へ。
セミナールームの席は半分ほど埋まり、有料セミナーのわりには集まっている印象。
年齢は比較的高め。リタイア後の道楽として文章を綴っている方や、同年代のご婦人が多そうです。若い人はあまりいません。氷河期世代の私でも若い方でした。

開始時刻となって先生が登場。
どんな文章テクニックを教えてくれるのかな、と期待に胸を躍らせていたのですが、始まったのは文章術の話ではなく「聴衆を「こんな人」呼ばわりする、日本語ができない首相」という安部首相批判でした。

面食らいましたが、なにしろ元新聞記者。社会情勢が主なフィールドですし、枕のつもりなのだろうと思いました。
しかし、この話が長い長い。
100歩譲って「こんな人」という言葉を使った安部首相のワードセンスのなさを批判したいのだろう…と思いたいところでしたが、話は徐々にエスカレート。安部首相の人格批判に至り、自民党の都議会選挙の惨敗へと続いていきました。

まわりの人たちもメモを取る手を止めています。後ろに座っているお兄さんは時折鼻息を荒くしていました。
いつ終わるとも知れない政治と社会の話に、みんなうんざりしている様子でした。

そんな空気に気づくことなく、さらに先生の舌鋒は若者文化批判へと向かいました。
「今の若者は日本語ができない。話し言葉ばかり使っている」「我々の時代にはこれだけの語彙が普通だったが、今の若者の語彙はその半分以下に減っている」「このままだと安部首相のように日本語ができない人間ばかりになる」などと、突然の世代マウンティングと若者批判を繰り出す始末。受講生には大学生もいるというのに…。

結局、90分の講義のうち、実践的な文章術の話は30分程度、残りは先生の政治思想、社会思想の話。
講義用にレジュメも配られていたのですが、これも最後の十数分に駆け足気味に触れただけでした(なおこのレジュメの冒頭にも、先生が書いた安倍総理批判の新聞記事が掲載されていました)。

これほど「早く終わってほしい」と思った有料セミナーもありません。

ためになる話がなかったとは言いません。
しかし文章術というよりは文章を書く際の気構えのような話であり、実践的な文章術かと言われると、かなり疑問が残る内容。あとは配った本を読んでねということでしょうか。だったらテキストを用いて教えてほしかったところですが。

先生は最後にこう言いました。「今日の受講生はあまり笑いませんね」と。

そりゃそうだよ。みんな政治談義を聞きに来たわけじゃない。文章を書く技術を教わりに来たのだもの。

なにを当たり前の事を…などと思ったのですが、同時に「なるほど」とも思いました。

■先生はなぜ、政治トークをしてしまったのか

先生は新聞紙の記者、論説委員、そして週刊誌編集長と、マスコミ畑を歩き続けてきた人でした。そして団塊の世代にして全共闘世代。この世代の文化人の多くは左派(今風に言うとリベラル)文化人と呼ばれる人たちで構成されています。
若き日の革命スピリッツを忘れず、権力批判こそ是として社会批判、政治批判を繰り広げてきた人たちです。権力に阿る者を非難し、暴利をむさぼる大企業を許さず、そして悪の首魁である自民党を憎みながら人生の大半を過ごしてきた人たちです。

彼らの感性から言えば、政権批判、権力批判は時候の挨拶のようなものです。政権をけなし、権力を否定することで友誼を結ぶことができたのが、彼ら全共闘世代です。政治の悪口を言い合えばシンパシーが生まれると信じ込んできた世代の人たちです。

つまり先生の長々とした政権批判は、受講生に向けてのサービストークだった、ということになります。

 

■現代とそぐわぬ全共闘インテリの常識

先生は「なんで笑ってくれないのだろう」と、なかば本気で思っていたでしょう。

しかし受講生側からすれば、日曜日の貴重な時間を費やし、10連ガチャ1回分のお金を払い、文章力を高めるためにやってきた人たちです。
言うなれば、文章作成を真摯に考えている、もしくは悩んでいる、文章に対して真摯な人たちということです。

そんな私たちが、聞きたくもない政治談義で笑うでしょうか。

受講生は先生が思っていたような「インテリ」ではありません。文章を書きたいという一点以外は、年齢も性別も、政治信条や宗教、そして応援する球団さえ違っている個々人です。

先生の想定通り、自民党はけしからんと思っている人もいたでしょう。逆に安倍政権を支持している人もいたかもしれません。しかしここは、政治のセミナーや社会情勢を扱うサロンではありません。生徒側の信条などどうでもいい話です。と同時に、先生の考えもどうでもいいのです。大事なことは、「文章の書き方」これだけです。

全共闘世代の考える正義は、いまはもはや絶対的な正義ではないのです。マスコミ、そして文壇という、旧来の価値観が保存されている世界ならいざしらず、世間はすでに多様化の時代に入っています。

今回の講義は言うまでもなく政治色があるべきではないセミナーでした。そこにきて、政治信条を語り、レジュメにも安部首相批判を書くようなマネをするべきではなかったのです。

かつてなら、例えば大学の講義などでも、権力への反骨心を見せればウケたのかもしれません。政権の悪口を言えば笑ってくれたのかもしれません。

しかしそれも、今となってはカビの生えた価値観でしかありません。
もうそんな、一律的な時代ではないのです。

なんというか、世代間のギャップを感じますよね。
おそらく先生はエスプリを効かせたつもりでしょうが、ジョークは伝わらなければ、ただの駄文でしかありません。そして先生は、その駄文をずっと話していた、ということになります。物書きとして、どうなんでしょうね。これは。

何が言いたかったのかといえば、「お金返して」ってことです。

(文/赤蟹)


赤蟹

スベスベマンジュウガニ並みに猛毒を吐きまくる赤い蟹の人。「てらどらいぶ」の裏ボス。サイト管理とコーディング、デザインなどを担当。文章を短くできないのが悩み。