ハイカルチャーの衰退は自分の尾を喰らう蛇のごとく

ハイカルチャーの衰退は自分の尾を喰らう蛇のごとく

先日、あるレトロゲームの実況配信をしていまして、そこで出てきたある伝統工芸が危機にあるという、あまりゲームとは関係のない余談で盛り上がりました。

その伝統工芸に限らず、日本各地の様々な伝統工芸や伝統文化の多くが、直近ではなくてもユーザー数や担い手の減少で尻すぼみになりつつあるという問題を抱えています。

そんな中で、あるコンテンツを見ていたのですが、そこに出演されていた伝統文化の方が、「今の若者は」というありがちな言い方で、伝統文化に関心を寄せない日本の若者に対して遠回しな苦言を言っていました。

さらに他国の若者の方が日本の文化に関心があるなどと言い出し、この言い方はどうなのかなと、すでに若者の範疇は外れた私ですが、ちょっと眉を潜めてしまいました。

そもそもなんですが、「今の若者は文化レベルが低い」みたいな言い方をハイカルチャー側の人達が言えば、若者は当然反発するでしょう。

文化といっても千差万別ですし、ハイカルチャーばかりが文化ではありません。まして平和で豊かな日本は文化の多様性も多く、様々なサブカルチャーが花開く国です。

ハイカルチャーなどと気取ってみても、別に人生にあってもなくてもいいものだし、趣味を楽しむ時間があるなら、若者をいちいちバカにする年寄りがいる分野より、同年代の同好の士が集まる趣味や文化の方を楽しむのは当然と言えます。

どのような文化がよくて、どの文化が悪いなんて、社会的地位や文化レベルが高いと自称する人にだって、決めることはできないのです。

決めるのはその文化に触れて楽しむ個々人であり、ユーザーが増えた文化が栄えるのは当然だと言えます。高尚だから、歴史があるかというだけで、マウンティングできるほど「文化」の世界は甘くはないのです。


多くの伝統文化や伝統工芸の需要が低下し、中には補助金なしではなりたたないもの、後継者がいなくて途絶えそうなものすらありますが、文化の担い手や顧客となるはずだった若者を、あなたたちはどう扱ってきたのかと問いただしたい。

自分たちの文化や作品を理解しない若者をバカにして、理解し、理解してもらおうという努力もしなかったような人も、少なくないのではないでしょうか。もしくは文化の変化を恐れるあまり、若者に寄り添おうとするものを批判したり叩いた古参のユーザーもいたかもしれません。

仮に口にはしなかったとしても、無理解な人間を見下すような態度や気配は、相手の心情を察するのが得意な今の「空気が読める」若者にはわかってしまうのです。

はっきり言ってしまえば「若者を侮らないでほしい」と思うのです。

私はサブカルチャー側の人間なので、ハイカルチャーの人間が「こちら側」をバカにしてくる局面を何度も見てきました。

例えば、実写映画畑の人間が、アニメを下衆なものバカにしたり。

実写映画とアニメの誕生の差はたかだか20~30年で、映画のほうが歴史がある、と決して言い切れるものではありません。この30年の差は双方の歴史が長くなれば結局は誤差にすぎなくなるわけで、実写の人たちがアニメを新参扱いしてバカにするのは、やはり違和感があるわけです。

でも、映画だって最初は芸術だと認められないで、先人が多くの傑作を作ることで生き残ってきたわけです。今、アニメをバカにしている映画関係者は、その延長上にいるに過ぎないのです。

音楽だってそうです。クラシックが主流だったところ、ニューミュージックやロック、テクノなどが生まれ、今では様々な音楽がいろいろな人達に楽しまれています。しかし、革新的すぎたり、好むユーザーの問題で生まれが不幸だったジャンルも多くあったわけです。

多くの文化は、大衆の手で揺籃されて大きく盛り上がり、1ジャンルとして確立されていくわけですが、そのスパンが何百年と続くといつの間にか金持ちだけの道楽に「堕落」し、庶民の関心を失い、ゆえに趣味を認めない人たちは下衆だのなんだとのハイカルチャー側の人間がバカにする構図ができあがってしまうのです。

大衆の関心を失い、滅びそうな文化を資産家がパトロンとして支え続けてきたので、結果ユーザーが金持ちしか残らなかったとも言えるのですが、そのような状況を「大成」というのは非常に違和感があるし、サブカルチャーを生業にしている私としては、なぜもっと早く大衆に歩み寄れなかったのかなとも思ってしまうわけです。


そのコンテンツの中でその人は「今後は海外に活路を見出していきます。海外では今、日本の伝統文化が非常に注目されているんですよ」と言っていました。

海外で日本の伝統文化が注目されるのは、私達が海外の文化に興味を抱くように、自分たちの生活の中にはないものがあるから、珍しいと思ってしまうからです。決して高尚だからとか、文化レベルが高いからとかではありません。

そのハイカルチャーと同じくらい、日本のゲームやアニメだって注目されているはずです(こちらは珍しいから、ではありませんが)。

国内の市場開拓を諦めて、簡単に売り込める海外勢を相手にしてしまうのは、個人としては逃げではないかと思うのです。若者を取り込み、新たな担い手を増やし、中興を目指し伝統を紡ぐことこそ、伝統のハイカルチャーの担い手ではないのでしょうか。

厳しいことを言いましたが、私は伝統工芸や伝統文化が大好きです。

心の底から頑張ってほしいと思ったので、その方の言い分にひどい違和感を感じてしまった、というわけです。

若者の無関心を批判したり嘆いたって、何も変わらないんですよ。中にいる人達が変わっていかない限り、文化というものは。

団長

てらどらいぶを運営する個人事業主。北区滝野川在住。 いつしか王子にレトロゲームおでん屋を開く野望をいだいている。 詳細プロフィールはトップページを参照のこと。

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